住宅ローンの返済を延滞してしまうと、最終的には家を手放さなくてはなりません。
しかし、専門家の力を借りるなどして特定の手続きを取ると家を手放すことなく債務整理できる可能性もあることをご存知でしょうか。
本記事では、住宅ローンを延滞していたり、返済が厳しくなってりしているものの、住宅を手放したくないという方に向けて住宅を失わずに債務整理する方法をご紹介します。
住宅を失わずに債務整理する方法
住宅ローンを返済できなくなり、そのまま放置すると最終的には抵当権を実行されて住宅が競売にかけられることになります。
競売したとしても住宅ローンに残債があると、なお返済を続けていかなければならないこともあり、競売と合わせて自己破産を選択することも多いです。
また、住宅ローンに限らず、その他のローンの返済ができなくなり自己破産を選択する場合も、財産を没収されるため住宅を失うことになります。
ただし、同じ債務整理であっても自己破産だと住宅を没収されますが、任意整理や個人再生といった方法を選べば住宅を失わずに手続きを進めることも可能です。
ちなみに、自己破産すると住宅を没収されるのは自己所有の持ち家に住んでいるケースだけで、賃貸物件に住んでいる場合は、自己破産を理由に退去しないといけないといったことはありません。
住宅ローンの仕組み
まずはローンの延滞を理由に住宅を失ってしまう理由になりやすい、住宅ローンについてその仕組みを見ていきましょう。
住宅ローンは他のローンと比べて数十年など長期間、非常に低い金利で利用できるようになっています。
これは、抵当権といって対象の住宅を担保にとっているからこそできることです。
抵当権とは
抵当権とは住宅ローンを組むときに金融機関が対象の住宅に設定することで、仮に住宅ローンが返済できなくなったときに、住宅を処分して優先的に弁済を受けられるようにすることです。
抵当権により、住宅を担保に融資を実施することが可能になります。
抵当権のついた住宅を売却するには、住宅の売却前に抵当権を抹消する必要があります。
仮に抵当権の残った住宅を売買するとなると、買主は自分とは関係のないとこで、住宅に残された抵当権が実行されて勝手に処分されてしまう可能性があるからです。
このため、住宅ローンは途中で返済が厳しくなったとしても簡単に売却できなくなってしまっています。
アンダーローンとオーバーローン
抵当権のついた住宅の売却については、売却時にアンダーローンなのかオーバーローンなのかを把握しておくことが大切です。
アンダーローンとは、住宅の売却価格で住宅ローンの残債を完済できる状態のことを指します。
抵当権は住宅売却時に抵当権を抹消している必要がありますが、これは住宅の売却と同時に抵当権を抹消するのでも構いません。
このため、アンダーローンの状態にあれば、仮に返済が厳しくなったとしても住宅を売却してしまえば問題ありません。
一方、住宅の売却価格より住宅ローンの残債が大きいオーバーローンの状態の場合に注意が必要です。
オーバーローンの場合の対処法
オーバーローンの場合、住宅の売却代金だけでは住宅ローンの残債を完済できないため、そもそも住宅を売却できません。
この場合、以下のような対処法が考えられます。
- 自己資金で住宅ローンの完済に足りない分を補填する
- 住み替えローンを利用する
- 任意売却する
それぞれについて見ていきましょう。
自己資金で住宅ローンの完済に足りない分を補填する
住宅の売却代金で住宅ローンの残債を完済できない場合でも、自己資金で住宅ローンの完済に足りない分を補填できれば問題ありません。
例えば、3,000万円の住宅ローンの残債があり、住宅の売却額が2,500万円だった場合、差額の500万円を自己資金で用意できればよいということになります。
なお、住宅の売却時には仲介手数料など経費がかかる点には注意しなければなりません。
住み替えローンを利用する
住み替えローンとは、住宅を売却して新居を購入する「住み替え」の場合に、元の住宅の住宅ローンの残債を完済する目的で不足分を加算して借りることができるローンのことです。
例えば、3,000万円の住宅ローンの残債があり、住宅の売却額が2,500万円で、新たに3,500万円の新居への住み替えを考えている場合に、住み替えローンで4,000万円借りて足りない500万円を補填できます。
ただし、住み替えローンについては物件価値以上の融資を受けるということもあり、通常の住宅ローンより審査が厳しく、また金利も高めに設定されていることが多い点に注意が必要です。
任意売却する
最後に任意売却するという方法があります。
任意売却とは、通常は住宅ローンを完済しなければ抵当権の抹消をできないところ、金融機関と交渉して住宅ローンの残債を残したまま抵当権を抹消する方法です。
抵当権を抹消したからといって住宅ローンの債務がなくなるわけではなく、任意売却後は引き続き住宅ローンの残債について返済していく必要があります。
任意売却を進めるには抵当権者である金融機関の承認を得なければなりません。
住宅ローンを返済できなくなったら
住宅ローンの返済が厳しくなると売却を考えていく必要がありますが、抵当権の存在により、状況によっては簡単には売却できないこともあります。
かといって、住宅ローンを延滞して放置していると、最終的には競売にかけられ強制退去となってしまいます。
ここでは、住宅ローンを返済できなくなったときにどのように手続きが進んでいくのかについて解説します。
競売とは
住宅ローンを延滞して放置していると、最終的には競売にかけられることになります。
住宅ローン延滞後、競売にかけられるまでの一般的な流れは以下の通りです。
- 督促状の送付
- 期限の利益喪失
- 代位弁済
- 競売の申立て
- 強制退去
それぞれについて見ていきましょう。
督促状の送付
住宅ローン滞納しても1~2カ月程度であれば、入金し忘れの可能性もあるため、金融機関からの取り立てはそこまで厳しいものではありません。
この段階では、金融機関から手紙や電話で督促されることになるでしょう。
しかし、その後も滞納が続き、3カ月以上入金がない場合、督促状や催告書が送付されてきます。
これらの書類には、遅延損害金に関する解説や「期限の利益を喪失させて保証会社に代位弁済を求める」といった内容が書かれています。
この段階で返済できればよいのですが、これより先に進んでしまうと後戻りできない点に注意が必要です。
期限の利益喪失
督促状や催告書が送付されても返済されない場合には、期限の利益が喪失します。
期限の利益とは債務者側が住宅ローンの返済について所有している権利で、「返済日が来たときに返済すればよい」というものです。
例えば、3,000万円の借入をしていたとしても毎月10万円の返済をしていけばよいのは、債務者に期限の利益が認められているからです。
しかし、住宅ローンの返済を滞納してこの期限の利益を喪失させる手続きが取られると、一括返済が求められるようになります。
上記例でいえば、3,000万円分完済しなければならないのです。
毎月10万円の返済も厳しいのに、3,000万円の返済を求められるなど無理な話でしょう。
多くの場合、一度期限の利益が喪失されると、何らかの形で住宅を手放さなくてはならなくなります。
代位弁済
住宅ローンを組むとき、金融機関は保証会社を立てるのが一般的です。
住宅ローンの返済について保証会社が債務者の保証人になっていると考えるとよいでしょう。
代位弁済とは保証会社が債務者に代わって債務を弁済する手続きのことです。
代位弁済がなされることで、住宅ローンの債権者は金融機関から保証会社に変わります。
このため、代位弁済後は債務者は保証会社に対して返済を行なっていかなければなりません。
なお、金融機関から保証会社へ債権者が変わった後、さらに保証会社から債権回収業者(サービサー)へ債権譲渡されることもあります。
競売の申立て
代位弁済後も返済がなされない場合、債権者は競売の申立てを行ないます。
ここまで、住宅ローンの滞納から半年~1年程経過しているのが一般的です。
競売の申立て後、裁判所により開始決定がなされると登記簿謄本にもその旨が反映されます。
競売手続きでは、裁判所執行官による現地訪問がなされ対象の物件について調査が行われた後、一般公募が行なわれ、入札によって買受人を決定します。
強制退去
競売により落札者が決定し代金が納入されると、納入金は債権者の配当に回されます。
これにより所有権は買受人に移転します。
この段階で元の所有者が引越しを済ませておけば、後は買受人が引越すだけです。
しかし、競売後も居座るケースも珍しくありません。
この場合、買受人は裁判所へ引渡命令を申立てて強制退去させることになります。
なお、競売が実施されて債権者に競売代金が配当されても、なおローンの残債がある場合には、引き続き返済の義務があります。
このため、競売と合わせて自己破産を選択するケースも多いです。
競売前に任意売却する方法もある
住宅ローンを返済できずそれを放置していると最終的には競売となってしまいますが、任意売却も検討できます。
任意売却は住宅ローンを完済せずとも抵当権を抹消してくれるよう金融機関と交渉して売却を進める方法です。
競売の場合、相場よりかなり低い額での売却となることが多いのに対し、任意売却であれば通常の売却と同じように相場通りでの売却を目指すこともできます。
競売後も残債が残っている場合には返済していく必要があることから、自己破産をしたくない場合には任意売却してできるだけ残債を減らすことを考えた方がよいでしょう。
ただし、任意売却は競売が実施されるまでの間に売却まで済ませる必要がある点に注意が必要です。
競売や任意売却すると新たにローンを組めなくなる?
住宅ローンを滞納して競売や任意売却すると新たにローンを組むことは非常に難しくなりますが、これは競売や任意売却したことが原因というわけではありません。
通常、住宅ローンを滞納して数カ月経過するとそのことが個人信用情報に「事故情報」として登録されることになります。
個人信用情報に自己情報が掲載されると、新たにローンを借りることは非常に難しいです。
住宅ローンの滞納を理由とした競売や任意売却であれば、そもそも住宅ローンの滞納を数カ月間していることが前提となりますので、いずれにせよ事故情報が登録されると考えておくとよいでしょう。
なお、自己破産などの債務整理を実施すると個人信用情報にその記録が残りますが、この場合、滞納を理由とした事故情報より長く情報が残ることになります。
自己破産すると住宅を失うことになる
住宅ローンの返済が厳しくなった場合、債務整理を考える方もいらっしゃるでしょう。
債務整理にはいくつかの種類がありますが、この内自己破産を選ぶ場合、住宅を失うことになる点に注意が必要です。
債務整理はしたいけど、住宅には引き続き住み続けたいという方は、自己破産以外の方法を検討する必要があります。
競売や任意売却と自己破産
競売や任意売却実施後もローンの残債がある場合には返済していく必要があります。
このため、競売や任意売却後に自己破産を選択される方も多いです。
競売と任意売却だと、相場通りでの売却も期待できる任意売却の方が売却後の残債を少なくできますが、どうせ最終的に自己破産するのであればどちらを選んでも同じだということもできます。
むしろ、競売であれば最終的に強制退去となるまで半年~1年間以上かかることもあり、それまでは家に住み続けることができるのだから競売の方がお得と考える方もいらっしゃるようです。
しかし、任意売却の場合、売却代金から引越し費用を捻出できるといったメリットがあります。
また、予想より高額で売却できた場合には自己破産しないで住むかもしれません。
双方にメリット・デメリットがあるため、それぞれ検討してみるとことが大切だといえるでしょう。
自己破産は競売や任意売却の前?後?
競売には半年~1年間の時間がかかりますし、任意売却であっても売却まで2~3カ月はかかるでしょう。
自己破産を考えているのであれば、競売や任意売却の前に手続きを済ませておいたほうがよいと考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、基本的には自己破産は競売や任意売却の後に行なうことをおすすめします。
というのも、自己破産は不動産などの財産を所有している場合とそうでない場合で取扱いが異なるからです。
具体的には、不動産などの財産を所有している場合は、その財産を処分する必要があることから「管財事件」として扱われることになります。
管財事件の場合、手続きに半年~1年間かかるのに加え、手続きに必要な費用も高くなります。
一方、不動産などの財産を所有していない場合に行なわれるのは「同時廃止」です。
同時廃止の場合、3カ月程度で手続きが済むのに加え、必要な費用も安いです。
ただし、上記はあくまでも一般的なケースなので実際に自己破産を実施するときは弁護士に相談することをおすすめします。
任意整理であれば個別に交渉できる
債務整理の一つの方法として、自己破産以外に任意整理という方法を選ぶこともできます。
任意整理とは裁判外で直接金融機関と交渉し、債務の減額や返済条件の変更をお願いする手続きです。
自己破産の場合、債務整理する債務を選ぶことはできませんが、任意整理の場合個別に交渉できるというメリットがあります。
このため、住宅ローンの返済が厳しくなったときに、住宅ローン以外の債務だけ任意整理して全体の返済額を減らすといったことが可能です。
この場合、住宅ローンについては条件を変更せずに返済していく必要がありますが、他のローンの条件を交渉することで住宅ローンの返済を続けていくことが可能であれば、任意整理後も住宅に済み続けることができます。
個人再生の住宅資金特別条項がおすすめ
住宅ローンの返済が厳しい場合に債務整理を検討する場合、もちろん任意整理で問題なく返済できればよいのですが、そうならない方もいらっしゃるでしょう。
そうした場合におすすめなのが個人再生です。
個人再生は裁判所を通して借金の一部を大幅に免除してもらう方法です。
自己破産と同じく裁判所を通して行う手続きということもあり、任意整理のように特定の債務だけ債務整理するといったことはできません。
仮に個人再生を行なったタイミングで返済中の自動車ローンがある場合には、ローン会社等に回収されてしまう可能性が高いというデメリットがあります。
ただし、個人再生には住宅資金特別条項というものがあり、これにより住宅ローンを個人再生の対象から外すことが可能です。
このため、個人再生により住宅ローン以外の債務を大幅に減額しつつ、住宅ローンについては返済を続けることができれば、債務整理後も住宅を残すことができるようになっています。
個人再生後も住宅ローンは返済する必要がある
個人再生で住宅資金特別条項を利用する場合、注意しなければならない点として住宅ローンは返済していく必要があるということが挙げられます。
このため、個人再生は住宅ローン以外にも複数の債務があり、返済が厳しくなっている人におすすめだといえるでしょう。
なお、住宅ローンについても金融機関と交渉して返済条件を見直す(リスケジュール)することは可能となっています。
条件が厳しい
個人再生は他の債務整理と比べて条件が厳しくなっています。
まず、任意整理後もローンを返済していく必要があることから、安定した収入がある必要があります。
また、個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者再生」の2パターンあり、それぞれに異なる条件が設けられています。
小規模個人再生の条件
小規模個人再生とは小規模の事業を営んでいる方を対象とした手続きで、以下のような条件を満たす必要があります。
- 住宅ローンを除いた借金総額が5000万円以下
- 個人再生によって減額された借金を3年(例外で5年)以内に返済できる見込み
- 債権者の過半数の同意
なお、小規模個人再生は実際には会社員が利用するケースも多く、個人再生の8割以上がこちらを利用します。
給与所得者者再生の条件
給与所得者再生とは会社員など給与所得者を対象とした手続きで、小規模個人再生のように債権者の過半数の同意が必要でない代わりにその他の条件が少し厳しくなっています。
- 住宅ローンを除いた借金総額が5000万円以下
- 個人再生によって減額された借金を3年(例外で5年)以内に返済できる見込み
- 給与変動の幅が20%以下であること
おわりに
住宅を所有されている方が、住宅ローンやその他のローンの返済が厳しくなったときに住宅を残しながら債務整理する方法についてお伝えしました。
住宅ローンの返済を滞納してしまうと最終的に任意売却や競売といった手続きを取る必要があり、住宅を手放さなくてはならなくなります。
このため、早い段階で債務整理などの手段を講じることが大切です。
債務整理の中でも自己破産を選択すると住宅などの財産は没収されることになります。
住宅を残しつつ債務整理を進めたいのであれば、任意整理や個人再生を選ぶとよいでしょう。
特に個人再生については住宅資金特別条項により、住宅ローン以外のローンを大幅に減額しつつ、住宅を残したまま債務整理できます。
住宅ローン以外のローンが複数あり、返済が厳しくなっている方におすすめだといえるでしょう。