「差し押さえの通知が届いたけどどうすれば良いのかわからない」「給料や財産はどれくらい差し押さえられるの?」
このような疑問や不安を抱えている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
差し押さえは、自宅や会社にも通知が来ますので、家族や同僚に滞納がバレて精神的なストレスがかかってしまうこともあるでしょう。
この記事では、差し押さえになるケースや差し押さえを回避する方法、万が一差し押さえをになってしまった場合の対処方法について詳しく解説します。
差し押さえとは?
差し押さえとは、一定の期間が経っても借金を支払っていない場合に、債権者からの申立を受けた裁判所が、債務者の財産の管理処分権を奪うことを言います。つまり、一定期間借金を滞納をすると、強制的に債務者の財産を没収して返済に当てる手続きのことを指します。
差し押さえは、消費者金融などからキャッシングをしていない場合でも適用されます。たとえば、クレジットカードのローンや分割払い・住宅ローン・税金の未払いなどが挙げられます。このような場合でも、業者が直接差し押さえをすることは法律で禁止されており、裁判所が差し押さえを行わなければいけません。
差し押さえを受けると、財産の処分権を奪われますので、勝手に車や家を売ることはできません。
差し押さえになるケースと流れ
差し押さえは、通告もなしにある日突然行われるものではありません。事前に何らかの通知が届きます。差し押さえになるまでの流れをわかっていれば回避できる可能性もあります。
ここでは、差し押さえになる具体的なケースとその流れについて解説します。
クレジットカード・カードローンの滞納
クレジットカード・カードローンの未払い分を滞納してしまった場合、滞納から差し押さえになるまでの流れは以下の通りです。
- 電話・ハガキによる督促
- 一括請求書
- 支払い督促
- 貸金請求訴訟
- 判決書・仮執行宣言付支払督促
クレジットカード・カードローンの支払いを滞納すると、まずは電話やハガキ・メールで督促が来ます。電話を無視し続けると、留守番電話で対応するように命じる旨を伝えられます。
その後、残額を一括で支払うように命じる一括請求書が自宅に届きます。一括請求書には、残額と遅延損害金を一括で支払うことと、応じない場合は訴訟を起こして強制執行する旨が記載されています。
この時点では、差し押さえされるのが確実に決まったわけではありませんので、債権者に相談することで回避することも可能です。
しかし、一括請求書を放置していると、債権者から支払い督促や〇〇が申し立てられて、裁判所から特別送達という通知が届きます。この通知が届くと、訴訟を起こされることはほぼ確定します。
裁判へ出頭もしない場合は、債権者の主張が全面的に認められる判決が下されます。その後、判決書・仮執行宣言付支払督促を用いて、債務者の財産を差し押さえできることになります。
住宅ローンの滞納
住宅ローンの滞納から差し押さえになるまでの流れは、以下の通りです。
- 督促状
- 期限の利益の喪失通知書
- 代位弁済通知書
- 競売開始決定通知書
まずは、毎月の支払い期限までに返済できなかった場合に「督促状」が届きます。督促状には、支払いの確認が取れないことや、滞納が続くと競売や一括請求をすることが記載されています。
また、住宅ローンには「期限の利益」といって、約束期限までの支払いや分割払いが可能とされています。督促状には、これ以上滞納を続けると「期限の利益」を喪失する可能性があることも記載されています。督促状を放置すると電話などで連絡が来て、最終的には催告書が届きます。
滞納から3〜6か月ほど経過すると、「期限の利益」が無くなったことを伝える「期限の利益の喪失通知書」が届きます。この通知書が届くと、滞納分の分割払いができなくなり、残金を一括で支払わなければいけなくなります。
その後、「代位弁済通知書」が届きます。代位弁済とは、住宅ローン残金の一括払いは現実的に難しいことが多いため、ローン保証会社が代わりに返済することを指します。そのため、代位弁済通知書はローン保証会社から届き、この後はローン保証会社から返済をするように連絡が来ます。
ローン保証会社への返済もない場合は、保証会社が裁判所へ競売を申請します。競売が認められると、住宅を差し押さえされて「競売開始決定通知書」が届きます。競売とは、売値がないまま住宅を売りに出して、1番高く売れた購入者へ住宅を販売し、その利益を債務に当てることです。つまり、住宅ローンを滞納し続けると、住宅をオークションにかけ、落札されると住宅の所有権が購入者のものになります。
税金の滞納
次は、税金を滞納するケースです。会社員などの給与所得者は、住民税や所得税が給料から天引きされるため、滞納してしまう可能性は低いでしょう。
しかし、個人事業主や経営者などはご自身で確定申告をした上で納税する必要があり、このような場合に税金を滞納してしまうことがあります。
税金の滞納から差し押さえになるまでの流れは以下の通りです。
- 督促状
- 電話・文書・訪問による催告
- 財産調査
- 登記・通知
税金が未払いで、納税期限から1か月以内に「督促状」が届きます。督促状には、発送日から10日以上経っても納税されない場合は、財産を差し押さえるといった内容が記載されています。その後、電話や文書、訪問によって納税を促されます。
それでも納税をしない場合は、「財産調査」がなされます。財産調査とは、金融機関や勤務先などから、滞納者の生活や支払い能力、住宅や車などの財産があるか調べることです。
国税徴収法第141条〜147条によると、この財産調査は滞納者の財産を保有し得る第三者への調査を事前の了承なしに行うことを認めています。
一 滞納者
二 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四 滞納者が株主又は出資者である法人
(引用元:国税徴収法第141条|e-Gov)
つまり、家族構成や収入状況などを調査するために、本人には知らさずに勤務先や銀行へ連絡をすることが許されています。
また、地方税法331条(一部抜粋)によると、税金の滞納は、クレジットカードや住宅ローンなどの民事債権とは異なり、裁判の判決を通さずに差し押さえすることができます。
第三百三十一条 市町村民税に係る滞納者が次の各号の一に該当するときは、市町村の徴税吏員は、当該市町村民税に係る地方団体の徴収金につき、滞納者の財産を差し押えなければならない。
一 滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。
二 滞納者が繰上徴収に係る告知により指定された納期限までに市町村民税に係る地方団体の徴収金を完納しないとき。
2 第二次納税義務者又は保証人について前項の規定を適用する場合には、同項第一号中「督促状」とあるのは、「納付又は納入の催告書」とする。
3 市町村民税に係る地方団体の徴収金の納期限後第一項第一号に規定する十日を経過した日までに、督促を受けた滞納者につき第十三条の二第一項各号の一に該当する事実が生じたときは、市町村の徴税吏員は、直ちにその財産を差し押えることができる。
(引用元:地方税法331条|e-Gov)
金融機関での滞納とは異なり、税金の滞納による差し押さえは事前に裁判を通す必要がありません。そのため、税金を滞納すると、ある日突然差し押さえを受ける可能性があります。
差し押さえの給料の範囲と対象になる財産
ここでは、ローン滞納時と税金滞納時の差し押さえ給料の範囲に加えて、差し押さえの対象となる財産について解説していきます。
ローン滞納時に差押される給料の範囲
ローンを滞納したときに受ける差し押さえの範囲は、給料から雇用保険や健康保険、各種税金などを差し引いた手取り額の4分の1の額になります。
第百五十二条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。
(引用元:民事執行法152条|e-Gov)
つまり、差し押さえを受けてからは、手取り額の4分の3を給料として受け取ることが可能です。また、ボーナスや退職年金なども4分の1までは差し押さえが認められています。
ただし、給料の4分の3が33万円を超える場合は、超えた分はすべて差し押さえの対象となります。
たとえば、月収が50万円の場合、4分の3は37万5000円ですので、超える分の4万5000円もすべて差し押さえを受けることになります。
また、差し押さえは元金・遅延損害金などを含めて、すべての債権を支払いきるまで続きます。
税金滞納時に差し押さえされる給料の範囲
国税徴収法によると、税金を滞納したときに受ける差し押さえの範囲は、給料から以下のものを差し引いた金額から20%が対象となります。
- 所得税、住民税、社会保険
- 同一生計の親族(配偶者や子供)一人あたり45000円
- 10万円
たとえば、月の総支給額が30万円で配偶者と子供一人がいる場合、差し押さえを受ける給料の計算方法は以下になります。
1.の合計が約60000円
2.の合計が90000円
3.100000円
(30万円−1+2+3)×20%=50000円
税金の差し押さえの場合は、ローンの差し押さえよりも高額になることが多い傾向がありますので、より注意が必要です。
差し押さえの対象に入る財産
差し押さえの対象に入る主な財産は以下になります。
- 給料
- 不動産(住宅、車)
- 動産(現金・商品・家財など)
- 債権
- 預貯金
なかでも、差し押さえの対象となるのは、基本的に不動産・動産・債権の3つが中心となります。
差し押さえの対象外のもの
差し押さえの対象外となる主な財産は以下になります。
- 66万円以下の現金
- 3か月の生活に必要な食料や燃料
- 生活必需品(衣服、家具、漫画、ゲーム等)
- 礼拝や祭祀に関わるもの(仏像、位牌等)
- 親族の所有物
差し押さえといえど、基本的に生活や収入を得るために不可欠なものは、対象外となります。また、差し押さえを受ける本人以外の家族(配偶者や子供)の所有物も没収されることはありません。
差し押さえを回避する方法
差し押さえは、督促状や電話による連絡が来ますので、一切の前触れもなしに受けることはありません。前述の差し押さえの流れで解説したように、督促などの通知が来た時点で正しく対処していけば差し押さえを回避することも可能です。
債権者に交渉する
差し押さえを回避する一つ目の方法は、債権者に交渉することです。督促状などで一括請求の通知が来た段階では、まだ交渉の余地があります。
なぜなら、債権者は「できるだけ差し押さえを実行せずに債権を回収したい」と考えているからです。実は、差し押さえを行うには、多くのお金と時間がかかります。また、実際に財産調査を行うのにも多くの人が動かなければいけません。そのため、差し押さえはできるだけ行いたくないものです。
具体的に交渉を行うコツとしては、支払いの意思があることを誠意を持った態度で伝えることです。
督促状などが自宅に届いても、滞納している後ろめたさからずっと放置してしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、勇気を持って連絡を取ってみると、意外と要望に応えてくれることもあります。
交渉内容としては、
- 一括請求から分割払いに変えてもらう
- 毎月の返済金額を減らしてもらう
などがあります。交渉の自信がない方や返済の減額が難しい方などは、弁護士に相談することをおすすめします。
債務整理をする
差し押さえを回避する二つ目の方法は、債務整理を行うことです。債務整理とは、国が認めた法的な手続きを利用し、借金を減額・免除して借金問題を解決させることを言います。
差し押さえを回避するには、電話や督促状で連絡が来ているうちに、債務整理の手続きを行う必要があります。
債務整理には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があります。全体に共通するメリットとしては、月々の返済額が減り、精神的な負担が大きく軽くなることです。一方、デメリットとしては、ブラックリストに入って新規の借入やクレジットカードの作成ができなくなることです。
債務整理は、基本的に本人以外に公表しませんので、差し押さえのように会社や家族に滞納がバレるような心配もありません。また、債務整理後は完済までの計画をしっかりと把握した上で返済していきます。そのため、毎月強制的に給料が引かれる差し押さえと比べても、心に余裕を持って生活しやすくなるでしょう。
ただし、差し押さえ通知が来てから債務整理を行うことは困難です。あくまでも、借金問題を解決する方法であり、差し押さえが決まった後に取りやめる方法ではありません。
また、債務整理をするには、弁護士へ依頼することをおすすめします。多数の書類の準備や裁判所とのやり取りなどが必要となりますので、一人で手続きを進めることは非常に困難だからです。
以上のことから、差し押さえまで踏み込んでいないような早めのタイミングで債務整理を行うことは、ご自身や家族、勤務先にとっても非常にメリットが大きい解決方法だと言えるでしょう。
万が一、差し押さえを受けた場合の解決方法
万が一、差し押さえを受けた場合も、冷静に対処していくことが重要です。差し押さえを受けてからは、基本的に返済をしていく以外には以下の二つの方法があります。
ここでは、差し押さえを受けた状態で返済をしていく以外の二つの解決方法について解説します。
差し押さえを受けてしまったら、返済していく以外には、
- 個人再生
- 自己破産
以外に解決方法はありません。
個人再生する
個人再生とは、債務の返済額を大幅に減額してもらい、残った額を分割で支払う手続きです。債務は5分の1程度に減額されることが多く、残りの債務を原則3年で返済していきます。
裁判所に申し立てて、個人再生の開始が許可されると、差し押さえがすべて中止されます。ただし、「同時廃止」と同じように、差し押さえを中止されてからの給料がすぐにもらえるわけではなく、手続き終了後に預けられていた給料を全額受け取ることができます。
自己破産する
自己破産とは、債務者の財産を処分し、債権者へ公平に分配する手続きのことです。財産を処分しても支払いきれなかった借金は、免責手続を同時に行い、裁判所の許可が下りれば全ての債務の支払い義務を免除できます。
自己破産にも「同時廃止」と「管財事件」があり、どちらの手続きも開始すると、差し押さえが中止または失効します。
「同時廃止」は、財産が少なく免責を認められない理由がない場合の手続きです。同時廃止は、手続きが開始すると給料の差し押さえは中止されますが、すぐに給料をもらえるわけではありません。手続きが進んでいる間の差し押さえ分の給料は会社などに預けられます。そして、2〜3か月後に正式に免責が許可されると、預けられていた期間分の給料が手に入ります。
「管財事件」は、ある程度の財産を保有している場合や、免責を認められない場合の手続きです。手続きが開始されると、差し押さえによる効力はすべて失効します。そして、破産管財人という人によって、財産が現金化され、債権者へ分配されます。「同時廃止」とは異なり、差し押さえが失効してからの給料はすぐに全額入ってくるようになります。
個人再生の手続きは、約6〜7か月で認可されることが多い傾向があり、手続きが認可されると、はじめて給料が手に入ります。
差し押さえの前に早めの対処をする
差し押さえは、何の通告もなしにいきなり行われるものではありませんので、事前の対処が非常に重要です。
差し押さえを早めに対処するには、以下のことに取り組みましょう。
- 借金問題を解決する
- 弁護士に相談する
- 過払い金請求をする
それぞれ詳しく解説します。
借金問題を解決する
まずは、借金問題を解決することが重要です。差し押さえの原因となる借金を解決することで、差し押さえなどの問題にまで発展するのを防ぐことができるからです。
たとえば、今月や来月の返済がどうしてもできない場合、債務整理を検討しましょう。また「月々の返済は可能だが、完済するまでに非常に長い年月を要する」といった場合にも債務整理は有効な解決方法です。
債務整理の手続きができると、返済の負担を減らすことができますので、余裕を持った資金繰りが可能となります。そのため、先に借金問題を解決することで、差し押さえなどのリスクを大きく抑えられるでしょう。
弁護士に相談する
差し押さえを受ける前に、借金について弁護士に相談することも重要です。なぜなら、実績のある弁護士は、どのような対策をすれば良いかを状況別に把握しているからです。
借金問題は、借入額や支払い状況、借入先によっても対処方法が異なります。特に、今回の差し押さえに関しては、住宅ローンやカードローン、税金の滞納などによっても適切な対処方法が異なってきます。そのため、ご自身で動いて対処していくよりも、弁護士の助言をもとに対処していく方が、効率的に解決することが可能です。
たとえば、債務整理はご自身で手続きを行うのは非常に手間や時間がかかります。さらに、一人で手続きを進めるよりも、弁護士に依頼した方が債務を減額・免責できる確率も高くなります。
過払い金請求をする
過払い金とは、簡単に言うと債権者が債務者から取り過ぎていたお金のことを指します。2010年に、利息制限法と出資法が改正されたことから、それ以前に借入を開始していた方に過払い金が発生する可能性があります。過払い金が発生していれば、高確率で返還請求を行うことができますので、月々の返済の負担を減らすことが可能です。
また、債務整理とは異なり、ブラックリストに載ることもありませんので、2010年以前から借入をしていた方は大きなメリットがある手続きだと言えるでしょう。
おわりに
差し押さえとは、債務者の財産の管理処分権を奪うことで、カードローンや住宅ローン、税金などを滞納することで強制執行として行われます。差し押さえの対象となるものは、給料・不動産・動産などがあり、給料は約4分の3が手元に残る計算となります。
差し押さえはすべての債権が回収されるまで続き、会社や家族にもバレることになりますので、できるだけ督促状や電話で連絡が来た段階で対処する必要があります。
具体的な方法としては、
- 債権者に交渉する
- 債務整理をする
- 過払い金請求をする
などがあります。しかし、ご自身で対処しようとすると、莫大な手間と時間がかかってしまいますので、できる限り弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することで、状況別に適切な対処方法がわかり、より早期の解決を図ることができます。