任意整理後にまとまったお金が入った場合、一括返済をしてよいものなのでしょうか。
一括返済を行うことで借金生活から解放されますが、何かしらのトラブルが発生してしまわないか気になるところです
。実際に一括返済によるデメリットを知らないでいると、想像とはまったく違う生活になってしまうことも考えられます。
この記事では、任意整理後の一括返済の方法やメリット、デメリットを紹介したうえで、一括返済に踏み切る場合の注意点などにも触れていきます。
任意整理後の一括返済の基本
任意整理後に一括返済は可能
任意整理は債務整理のひとつで、裁判所を通さずに貸金業者と直接、和解交渉を行います。
弁護士や認定司法書士が代理人となって貸金業者と交渉を行い、和解を成立させるのが一般的です。
貸金業やとの交渉によって将来の利息をカットして返済の負担を減らし、お金を借りている債務者が無理なく返済できるように、返済期間は3~5年で月々の分割払いとするケースが多いです。
しかし、なんらかの理由でまとまったお金が入ったケースなど、任意整理で和解した後に、残りの返済額を分割払いとしていた支払い条件を変更して、一括返済にすることは可能です。
民法の和解に関する条項をみていくと、695条に「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」とあり、和解条件の金銭の授受に関して、一括返済を禁止する規定は設けられていません。
特に民法によって禁止されてはいないことから、残りの返済額を一括返済とすることはできるのです。
また、一括返済をしたことを理由に、任意整理をしたことが第三者に知られる心配はありません。
任意整理後の一括返済の進め方
任意整理後に一括返済をするには、直接、貸金業者とやり取りをするのは避けて、任意整理を依頼した弁護士に依頼します。
これまで代理人の弁護士を窓口としていたにも関わらず、直接、債務者本人がやり取りをしてしまうと、行き違いが生じるリスクがあるなど、トラブルに発展する恐れがあるためです。
利息がつく取引による借金の場合は、分割払いを一括返済すると利息による将来の利益が生じなくなるため、貸金業者に難色を示されるケースもあります。
しかし、任意意整理では将来の利息がカットされていることが多いため、分割払いによる返済でも利息による利益が発生しません。そのため、貸金業者に一括返済を申し入れると、歓迎されることがほとんどです。
むしろ、一括返済によって、債務者が任意整理後に自己破産して残債を回収できないリスクを抑えられます。また、利息が入らないにも関わらず管理の手間だけかかる状況を解消できることも、貸金業者にとってはメリットです。
任意整理後に一括返済するメリットとデメリット
任意整理後に一括返済をするのはメリットが薄く、デメリットの方が大きいです。
一括返済を行うことで精神的には楽になるものの、金銭的なメリットはほとんどなく、将来、経済的に苦しくなるリスクが生じます。
一括返済をする前に、デメリットをよく理解したうえで、生活に余裕がある場合に限って、一括返済を検討するとよいでしょう。
メリット
任意整理後に一括返済をすることは、債務者には大きなメリットはありません。
あえて挙げるとすれば、次の2点があります。
1つ目は借金生活から早期に開放され、精神的に楽になることです。
分割払いで借金を返していると、毎月、借金の返済に追われている状況が今後も続いていくという重圧を感じながら生活している人が少なくありません。
一括返済をしてしまえば、毎月の返済日を気にして生活することから解放されます。
また、借金から解放されることで人生をより楽しめるようになります。借金返済があるうちは、会社の同僚や友人と飲みに行ったり、遊びに行ったりするのを避けていた人も、金銭的にも精神的にもゆとりが生まれます。
2つ目は一括返済をするにあたり、弁護士に貸金業者との交渉を再度依頼することで、返済額を減額できる可能性があることです。
債務者から将来返済が滞るリスクを踏まえると、残りの返済額の7割~9割程度に減額してもらえる可能性があります。
とはいえ、一度、和解交渉によって利息をカットすることに応じてもらっているため、減額を交渉するのはハードルが高いといえます。
実際に減額に応じてもらえるのは、貸金業者の資金繰りが悪化していて回収を急いでいるケースなど限定的です。
デメリット
任意整理後の一括返済はデメリットの方が大きく、主に3点が挙げられます。
1つ目に挙げられるのは返済する総額は変わらないという点です。
住宅ローンの繰り上げ返済は将来の利息が抑えられるというメリットがあります。
一方、任意整理後の一括返済は、任意整理によって既に将来の利息がカットされている状態のため、早期に返済を終えても、将来の利息を抑えられるというメリットは生じません。
そのため、和解条件通りに毎月分割払いで返済した場合も、一括返済した場合も、返済額の総額は変わらないのです。
2つ目として、いわゆるブラックリストにのっている期間は短縮されない点が挙げられます。
個人信用情報機関に任意整理の事故情報が記載されている期間は5年間です。
和解条件に沿った分割払いによる返済でも、一括返済でもこの期間は変わりません。
正規の貸金業者はローンの審査の際には個人信用情報機関に照会を行うため、ブラックリストにのっている間は新たなローンの借入をしたり、クレジットカードを作ったりすることはできません。
3つ目は将来生活が苦しくなるリスクがあることです。
将来、病気やケガで収入がかさんだり、不景気によって給与やボーナスがカットされたり、勤務先の倒産によって失業したりして、手持ち資金に余裕がなくなる可能性があります。
しかし、任意整理から5年間のブラックリストにのっている状態では、新たな借入ができないため、そんなときに生活に困窮してしまうことが懸念されます。
そのため、一括返済できるまとまったお金が入っても、手元に残しておく方が得策といえるのです。
任意整理後の一括返済の注意点
任意整理後の一括返済には注意するべき点もあります。
貸金業者に一括返済を申し出ると、万が一支払いができなくなった場合の大きなリスクを抱えることになります。
また、一括返済をするのであれば、全ての貸金業者を対象にするのが基本。一部の貸金業者に一括返済をすると、残りの業者への返済が滞って自己破産を考えたときに、認められない可能性があります。
期限の利益を放棄するとリスクがある
債務者は一定の期限の到来までは支払いを猶予してもらえる期限の利益を持っています。
そのため、和解条件に定められた支払い期限までは返済しないことを主張できます。また、分割払いに対しても期限の利益が発生するため、毎月5万円ずつ36回払いという取り決めをしていれば、債権者の側から一括で180万円を支払うように要求することはできません。
ところが貸金業者に対して一括返済を申し出ると、この期限の利益を放棄したことになります。これまでの取り決め通りに「○月○日まで支払わなくてよい」という状態ではなくなるとともに、分割払いを主張できなくなります。
そのため、貸金業者に一括返済を申し出ることは、何かしらの事情で支払えなくなっても、一括での返済を求められるとういリスクを伴う行為です。
万が一支払えない場合には、差し押さえなどの強制執行の手続きがとられることも考えられます。
貸金業者に一括返済を申し出る前に、無理なく支払うことができるのか、熟慮することが大切です。
全ての借入先に一括返済しなければならない
任意整理後の返済はどの貸金業者に対しても公平に行うのが原則です。
一括返済をするのであれば、全ての貸金業者に対して一括で支払う必要があります。そのため、全ての貸金業者などの債務者に対して一括で支払う資金がある場合のみ、一括返済を検討しましょう。
全ての債務者に平等で一括返済をする必要があるのは、その後返済が苦しくなってしまって自己破産に至った場合に、一部の貸金業者だけに一括返済をしていると、偏頗弁済(へんぱべんさい)を疑われる可能性があるためです。
偏頗弁済とは、自己破産や個人再生を行う前後の時期に、特定の債権者にのみ返済や担保の提供を行うことで、債務者が債権者の権利を損なうために自分の財産を減少させる詐害行為に当たります。また、偏頗弁済は破産法によって禁じられている行為です。
裁判所に自己破産や個人再生の申し立てをして、偏頗弁済があったとされると、自己破産や個人再生が認められないケースや、破産管財人から否認されて一括返済したお金が取り戻されるケースがあります。
万が一、自己破産をする事態に陥る場合に備えて、偏頗弁済を疑われないためにも、任意整理後の一括返済は弁護士などの専門家に相談しながら進めていくのが望ましいです。
任意整理後の一括返済をするときに知っておきたい予備知識
「任意整理後に一括返済を考えるのはどのようなタイミング?」「任意整理後に一括返済をすればブラックリストにのっている状態ではなくなる?」「任意整理後の一括返済は自分で交渉できる?」といった任意整理後に一括返済をする前に疑問に感じやすい知っておきたい知識をまとめました。
任意整理後に一括返済したくなるのはどんなタイミング?
任意整理を行うのは一般的に、借金を返済するために借金をして自転車操業になっているケースや、複数の貸金業者から借金をしているケース、収入に占める月々の返済額の割合が高いケース、利息分のみしか返済できず元金が減らないケースなどです。
つまり、借金に追われていて生活が苦しいような状況で任意整理が行われています。
では、借金によって生活が苦しくて任意整理を行ったにも関わらず、どのような状況になると一括返済を考える人が多いのでしょうか。
一括返済ができるようなまとまったお金ができる理由として、遺産や退職金、ボーナスが入ったケースのほか、昇給や転職、あるいは配偶者など家族の就職によって世帯年収が増えて、貯金ができたケースなどが考えられます。
任意整理後の一定の期間は、いわゆるブラックリストにのっている状態のため、新たな借入が難しいです。まとまったお金が入ったときも、一括返済をすることに無理はないか、今後のマネープランを踏まえて慎重に判断しましょう。
一括返済すれば信用情報は回復する?
個人信用情報機関によってはそもそも任意整理に関する情報は記載されず、滞納した情報のみが記載されています。
この場合、任意整理をして完済した日から5年が経過した後、事故情報が削除されて、いわゆるブラックリストに載っている状況が解消するため、完済した時点で信用情報が回復するわけではありません。
また、任意整理の情報を記載している個人信用情報機関もありますが、任意整理を行ってから5年間の記載となり、分割払いで滞りなく返済したケースでも、一括返済をしたケースでも、削除される日は同じです。
いずれにしても任意整理後に一括返済を行っても、個人信用情報機関の事故情報が削除されるまでの5年間の起算日が変わる可能性があるだけに過ぎません。個人信用情報機関の事故情報は一括返済をしてもすぐに回復するわけではないため、時間が経過するのを待つしかないのが実情です。
無理に一括返済を目指すよりも、貯蓄をしながらきちんと完済していくことを目指しましょう。
弁護士ではなく自力で一括返済の交渉をしても大丈夫?
任意整理後の一括返済の交渉は、弁護士に依頼をせず自分で行うことも可能です。
ただし、債務者が法律の知識がない状態で、これまで何件もの任意整理に対応してきた貸金業者と、対等な立場で交渉を行うのは難しいものがあります。
仕事をしながら慌てて法律の知識を身に付けようとしても、短期間で習得するのはハードルが高いです。自力貸金業者と交渉して、不利な条件での返済となってしまうリスクを踏まえると、法律の専門家である弁護士に依頼した方が安心です。
また、貸金業者と任意整理後の一括返済のため接触すると、上手いことをいってお金を改めて貸そうとする業者もいる点に注意が必要です。
任意整理をした後は新たに借入ができない状態ですが、安易にお金を借りてしまうと一括返済によって借金から解放される意味がなくなってしまいます。
まとめ
任意整理後の一括返済は、返済後の生活が苦しくならないか生活費を計算してみるなど、今後のマネープランを踏まえたうえで、慎重に判断するべきです。
任意整理後に一括返済をした後、万が一、生活が苦しくなっても、個人信用情報機関の信用情報が回復するまでの数年間は、正規の貸金業者からお金を借りることはできません。
残りの借金を一括返済しても問題がないか、自分自身で判断するのが難しい場合は、弁護士に相談してみましょう。