過払い金

みなし弁済とは?みなし弁済が認められると過払い金請求ができない?

過払い金請求について調べていると「みなし弁済」という言葉が必ず出てきます。過払い金とみなし弁済は深く関わっているワードですが、みなし弁済の意味がわからない方は多いのではないでしょうか?

過払い金請求を行うと貸金業者からみなし弁済を主張されることがあり、みなし弁済が認められた場合は過払い金請求ができなくなってしまうのです。

ただし、平成22年の貸金業法改正によってみなし弁済は撤廃されているので、現在みなし弁済が認められるケースはめったにありません。

本記事では、みなし弁済に関して解説していきます。過払い金請求を検討している方は、ぜひご一読ください。

みなし弁済とは?

みなし弁済は、平成21年以前に貸金業規制法43条で定められていた規定です。

みなし弁済の規定は、下記3つの条件を満たしている限り、法定金利を超えた貸し付けを行っても、利息を受け取ることができるというものでした。

主な3つの条件は以下の通りです。

  • 貸金業規制法17条にもとづく書面の交付
  • 貸金業規制法18条に基づく書面の交付
  • 利息としての任意の支払い

本来過払い金請求をすれば過払い金が返還されます。しかし、一定の要件を満たしみなし弁済が認められてしまうと、過払い金請求ができなくなってしまうのです。

当時の貸金業者は過払い金請求をされてもみなし弁済を主張し、利息制限法を超えて支払った利息も受け取れる権利があるとして、過払い金返還を拒んでいました。

しかし、平成22年には貸金業法が改正され、みなし弁済は撤廃されています。

みなし弁済は平成22年に撤廃

みなし弁済は、平成22年に完全撤廃されています。

グレーゾーン金利を助長する制度とも言われていたみなし弁済は、消費者から撤廃を求める声が多くあり、見直されました。

平成22年以降は貸金業法改正により、グレーゾーン金利もみなし弁済も撤廃されているので、平成22年以降の新規借り入れで、グレーゾーン金利やみなし弁済が適用されることはありません。

みなし弁済が認められると過払い金請求ができない

みなし弁済が認められてしまうと、過払い金請求ができなくなります。

みなし弁済の要件さえ満たせば、貸金業者は本来過払い金であるはずの利息を正式に受け取れる形になってしまうのです。

貸金業法改正前は、みなし弁済が適用されたとして利息制限法に違反する貸し付けを行う業者が多くいたため、”グレーゾーン金利を助長する制度”とも言われていました。

みなし弁済とグレーゾーン金利の関係

グレーゾーン金利は、利息制限法の金利と出資法の金利との間にある金利です。

利息制限法を超える利率ではあるものの、出資法の上限金利を超えない利率であり、違法でありながらも処罰の対象にならない利息でした。

しかし、処罰の対象にならないとはいえ、利息制限法を超過した部分は、過払い金請求をされることがあります。

そこで、貸金業者が過払い金請求を回避できたのがみなし弁済の規定です。

みなし弁済は、一定の条件を満たせば、利息制限法の上限を超過した分の金利が有効なものとなってしまうため、グレーゾーン金利を助長するような制度となってしまいました。

そのため、貸金業者はグレーゾーン金利での貸し付けを見直さなかったのです。

グレーゾーン金利とは?

平成22年に貸金業法が改正される以前は、利息制限法と出資法という2つの法律でそれぞれ異なる金利の上限が設定されていました。

利息制限法では貸付金額により上限金利が15~20%、一方出資法では上限金利が29.2%とされていたのです。

そのため、利息制限法の上限を超えても出資法の上限を超えない金利が発生していました。この利息制限法の上限を超えても、出資法の上限を超えない金利を「グレーゾーン金利」と呼びます。

過払い金とは?

過払い金は、グレーゾーン金利によって生じた金利の差です。

貸金業法改正以前は、利息制限法に違反しても出資法に定める上限金利の範囲内で貸付をすれば処罰されなかったため、グレーゾーン金利で貸付を行う貸金業者が多く存在していました。このグレーゾーン金利によって、払いすぎた利息が「過払い金」です。

平成22年に貸金業法が改正されているので、過払い金の有無は貸金業者からの借り入れが平成22年以前かどうかが判断材料となります。

ただし、平成18年の裁判により、「グレーゾーン金利はほとんど認められない」とくだされてから、金利を見直す業者も増えました。そのため、平成18年から平成22年の間でも、過払い金が発生していない場合があります。

正しく過払い金が発生しているか確認するには、取引履歴を請求して、引き直し計算しなければいけません。

また、過払い金の時効は10年と定められているため、最終取引日から10年経過している場合、過払い金請求はできなくなります。

みなし弁済が認められることはほとんどない

みなし弁済が撤廃される以前でも、認められるケースはめったにありませんでした。みなし弁済が認められるには、厳格な条件を満たさなければいけなかったためです。

また、平成18年の「最高裁判所第二小法廷平成18年1月13日判決」が、みなし弁済が認められない決定打となり、平成18年からみなし弁済撤廃までの平成22年の間まで、みなし弁済が認められることはほとんどありませんでした。

みなし弁済が認められるには6つの条件がある

みなし弁済が適用される条件は、6つの条件を満たしていなければいけません(貸金業法改正前までは5つの条件)。

  • 貸金業登録業者である
  • 契約時に法定の契約書を交付している
  • 弁済のたびに法定の領収書を交付している
  • 債務者が任意に利息として支払っている
  • 債務者が利息として支払っている
  • 平成22年以前の借り入れ

大きなポイントは、法定金利より高い利息と知りながら債務者が利息を払っているかどうかです。たとえ利息を支払っていても、債務者が法定金利より高いと理解していなければ、みなし弁済は適用されません。

また、あくまで任意で支払った場合に適用されます。みなし弁済が適用されるには、債務者の意思が大きなポイントとなるのです。

その他いくつもの条件があるので、基本的にみなし弁済が認められるケースはありません。

ぞれぞれの条件を解説していきます。

貸金業登録業者である

大前提ではありますが、貸金業者が貸金業登録の許可を得ている業者である必要があります。

いわゆるヤミ金は、貸金業登録業者ではないので、みなし弁済が認められることはありません。

貸金業者が貸金業登録業者かどうかは、金融庁から調べられます。そもそもヤミ金自体が違法なので、借金を返済する必要はありません。

契約時に法定の契約書を交付している

貸金業者は、お金を貸し付けする際に法定事項「貸金業規制法17条」に定められた書面を交付しなければいけません。

貸金業法第17条で下記のように定められています。

一 貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所
二 契約年月日
三 貸付けの金額
四 貸付けの利率
五 返済の方式
六 返済期間及び返済回数
七 賠償額の予定に関する定めがあるときは、その内容
八 前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項

(引用元:貸金業法第17条|e-GOV

平成16年に行われた裁判においても、「17条の法定記載事項がなければみなし弁済が成立しない」と判決をくだされています。

17条書面には、法17 条1項所定の事項すべてが記載されていることを要するものであり、その一部が記載されていないときは、法 43 条1項(みなし弁済)適用の要件を欠く。

(引用元:貸金業に関する主な最高裁判決|金融庁

契約時に17条書面を交付していない場合、または定められているすべてのな内容が記載されていない場合、みなし弁済は認められません。

弁済のたびに法定の領収書を交付している

貸金業者は、返済を受けるたびに領収書(受取証書)を発行する義務があります。領収書の内容は「貸金業規制法18条」が定めている内容でなければいけません。

貸金業規制法18条が定めている内容は以下の通りです。

一 貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所
二 契約年月日
三 貸付けの金額(保証契約にあつては、保証に係る貸付けの金額。次条及び第二十一条第二項第四号において同じ。)
四 受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額
五 受領年月日
六 前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項

(引用元:貸金業法第18条|e-GOV

18条書面が交付されていない、または一部が抜けている場合、みなし弁済は認められません。

しかし、過去には一部の条件に当てはまった場合、18条書面を交付しなくても良いという解釈がありました。貸金業法18条2項において、「口座振込の場合、債務者が請求した場合に限り18条書面の交付をすればよい」という規定があります。

2 前項の規定は、預金又は貯金の口座に対する払込みその他内閣府令で定める方法により弁済を受ける場合にあつては、当該弁済をした者の請求があつた場合に限り、適用する。

(引用元:貸金業法第18条|e-GOV

1991年1月に行われた最高裁判決では、「口座に対する返済をされたときでも、特段の事情がない限りは領収書を交付しなければいけない」とくだされています。

貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされたときであっても、特段の事情のない限り、貸金業者は、払込みを受けたことを確認した都度、直ちに、 同法 18 条1項に規定する書面(受取証書)を債務者に交付しなければならない。

(引用元:貸金業に関する主な最高裁判決|金融庁

また、領収書は弁済の直後にしなければならず、弁済を受ける前に交付したり、弁済から7日から10日以上経過した場合には、正式に領収書を交付したことにはなりません。

平成 16 年2月 20 日最高裁判決
○18 条書面の交付は弁済の直後にしなければならない。
平成 16 年2月 20 日最高裁判決(上記とは別の判決)
○貸付の弁済を受ける前に書面を交付した場合は 18 条1項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできない。
平成 16 年7月9日最高裁判決
○支払後7ないし 10 日以上後にされた 18 条書面の交付をもって、弁済直後の交付と解することはできない。

(引用元:貸金業に関する主な最高裁判決|金融庁

つまり、弁済の領収書は以下の規定を守らなければいけません。

  • 18条が定めた内容すべてを記載する
  • 口座振り込みの場合でも交付する
  • 弁済直後7日未満で交付しなければならない

すべてを守っていなければ、みなし弁済を認める要件の領収書にはなりません。

債務者が任意に利息として支払っている

みなし弁済が認められるのは、債務者が”任意”で利息を支払っていなければいけません。

“任意”というのは、本人の意思で払ったものであるため、利息を強要された場合は任意ではありません。また、この場合の”任意”とは、契約時ではなく、支払い時の意思もポイントです。

借り入れ契約時に指定された金利を認めても、返済時に任意で支払っていなければみなし弁済は認められません。

しかし、”任意で支払っている”に関しては、曖昧な点がありました。

「法定利息を超えた利息だと理解していない場合は認められない」という解釈もあれば、過去の判例で「法定利息超えていると知らなくても任意に支払っている」と解釈されるケースもあったのです。

法四三条一項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条三項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償 金の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれらを支払ったことをいい、債務者において、その支払った金銭の額が利息制限法一条一項又 は四条一項に定める利息又は賠償額の予定の制限額を超えていることあるいは当該超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要しないと解するのが相 当である。

(引用元:裁判例結果詳細|裁判所

つまり、利息制限法を超過した利息だと知らなくても、支払った以上は「任意に支払った」と判断されてしまうのです。しかし、現在では”任意の支払い”に対しても見直されています。

債務者が利息と認識して支払っている

債務者が返済時に利息と理解した上で支払っているかどうかもポイントです。

利息制限法の上限金利を超えた利息に対して、債務者が”利息”と認識して支払った場合、みなし弁済を認められる可能性があります。

しかし、借金の元金なのか利息なのかわからずに返済している場合、みなし弁済は認められません。

平成22年以前の借り入れ

みなし弁済の規定自体は、平成22年の貸金業法改正により撤廃されています。そのため、平成22年以降の取引で、みなし弁済を主張されることはありません。

しかし、取引が平成22年以前、貸金業法改正の場合には、適用される可能性があります。

ただし、平成22年以前の取引であっても、みなし弁済が認められるケースがごく稀なケースであり、認められることはほとんどありません。

平成22年みなし弁済は廃止

平成22年には、貸金業法が改正され、みなし弁済は完全に廃止となりました。

みなし弁済が廃止された流れには、多重債務の社会問題や平成18年に行われた最高判決が影響しています。平成18年の裁判後、みなし弁済に対する見直しの声はありましたが、正式に撤廃されたのは平成22年です。

みなし弁済が廃止されるまでの流れを解説していきます。

多重債務の社会問題

利息制限法は、貸金業者から消費者を保護するために金利を制限するものです。

しかし、みなし弁済が認められてしまえば、利息制限法の意味がなくなってしまいます。

みなし弁済が認められていた当時は、経済的に圧迫される債務者が多くなり、多重債務が社会問題となりました。多重債務の解決のためにも、みなし弁済は撤廃されたのです。

貸金業法改正の目的として、”多重債務の解決”と記載されています。

多重債務問題の解決の重要性及び貸金業が我が国の経済社会において果たす役割にかんがみ、貸金業の登録の要件の強化、貸金業協会及び貸金業務取扱主任者に係る制度の拡充並びに指定信用情報機関制度の創設を行うとともに、貸金業者による過剰貸付けに係る規制の強化を行うほか、みなし弁済制度の廃止、業として金銭の貸付けを行う者が貸付を行う場合の上限金利の引下げ、業として行う著しい高金利の罪の創設、利息とみなされるものの範囲に係る規定の整備等を行うこととする。

(引用元:法令改正動向|日本貸金業協会

平成18年の最高裁判決

みなし弁済撤廃の決定打となったのが、平成18年に行われた「最高裁判所第二小法廷平成18年1月13日判決」です。

それまでもみなし弁済が成立しないという判決は多く出ていましたが、みなし弁済の規定自体を否定するような判決はありませんでした。

しかし、「最高裁判所第二小法廷平成18年1月13日判決」では、みなし弁済が適用されることはほとんどありえないと、決定的な判断をくだしたのです。

貸金業者において法43条1項の規定に基づき取得を容認され得る約定利息の支払を債務者が怠った場合に期限の利益を喪失する旨の合意は,何ら不合理なものとはいえず,また,債務者が,この合意により,約定利息の支払を強制されることになるということはできないから,上告人A1のした利息の制限額を超える額の金銭の支払は,同項にいう「利息として任意に支払った」ものということができる。
しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。

(引用元:裁判例結果詳細|裁判所

要約すると「債務者は利息を任意の上で支払っており、みなし弁済の条件には一致するものの、本裁判ではみなし弁済として認められない」というものです。

本裁判により、平成18年からみなし弁済の要件を厳格にするべきだという意見が相次ぎました。そして、平成22年の貸金業法改正により、みなし弁済は完全撤廃となったのです。

平成22年法改正

みなし弁済が完全に撤廃されたのは、平成22年6月18日の貸金業法改正です。

平成22年の貸金業法改正では以下の内容が改正されました。

完全施行(平成 22 年 6月18日施行)
「貸金業務取扱主任者の必置化」、「財産的基礎要件の引上げ」、「出資法上限金利の引下げ」、「行為規制の強化」、「みなし弁済制度の廃止」、「上限金利の引下げ」、「過剰貸付の禁止(総量規制の導入)」、等が施行された。

(引用元:法令改正動向|日本貸金業協会

  • 貸金業への参入条件の厳格化
  • 貸金業協会の自主規制機能強化
  • 行為規制の強化
  • 業務改善命令の導入
  • 特定信用情報機関制度の創設
  • 総量規制の導入
  • 上限金利の引き下げ
  • みなし弁済制度の廃止
  • ヤミ金に対する罰則強化

みなし弁済制度の廃止に関しては、以下のように記載されています。

貸金業者の行う金銭消費貸借契約に基づき債務者が利息制限法第1条第1項に規定する利息の制限額と出資法第5条第2項に規定する利息の制限額との間の金利(いわゆるグレーゾーン金利)を任意に支払い、貸金業者から契約書面等が交付されている場合には、当該支払いは有効な債務の弁済とみなすこととして いる規定は廃止された

(引用元:法令改正動向|日本貸金業協会

みなし弁済を主張する貸金業者はいる

現在みなし弁済は撤廃されているので、平成22年以降の取引であれば、みなし弁済を主張してくることはありません。

しかし、取引が平成22年以前の場合、まれにみなし弁済を主張する貸金業者がいます。もし、みなし弁済を主張されてもほとんど認められることはありませんが、個人でやり取りする場合は貸金業者との対応は難しくなる場合があるでしょう。

みなし弁済を主張される可能性を考えると、過払い金請求は弁護士に依頼することをおすすめします。

おわりに

現在みなし弁済を主張する貸金業者はほとんどいませんが、もし過払い金請求時にみなし弁済を主張されたら、みなし弁済が認められる要件を満たしているか確認してみましょう。

ただし、基本的にみなし弁済が認められにくいのは貸金業者側も理解しているので、主張してくるケースはめったにないでしょう。