すでに借金を完済してしまっている人でも、「過払い金請求」をすることで過去に払いすぎた利息を返してもらえることは有名ですね。でも実は、過払い金請求でもらえるお金は払いすぎた利息だけじゃないことをご存知ですか?
・発生している過払い金には“利息”がつく!
過払い金には“利息”がつくケースがあるのです。過払い金の返還請求をするための法的根拠となっているのは民法703条「不当利益返還請求権」なのですが、この内容を簡単に説明すると以下の内容になります。
“法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。”
つまり、「正当な理由なく他人の損失によって利益を得た者は、その損失を受けた人に対して受けた利益を返還しなくてはいけない」と規定されています。この正当な理由のない利益(法律上の原因のない利益)のことを「不当利益」と呼びます。
一般的に過払い金と呼ばれているものもこの不当利益に当てはまるので、法的に返還してもらうことが認められている、というわけです。(最高裁判決:昭和43年11月13日)
そして、「不当利益返還請求権」には続きとなる条文:民法704条があります。その中では「悪意の受益者の返還義務」として、以下のように規定されています。
“悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。”
つまり、「不当に利益を受けた者が悪意の受益者であった場合、不当に受けた利益は利息を付けて返還しなくてはいけない」と規定しているのです。過払い金請求においては、貸金業者は原則として悪意の受益者と推定されます。(最高裁判決: 平成19年7月13日)貸金業者が悪意の受益者とならないのは、利息の超過部分について、「みなし弁済規定」(すべて満たせば、弁済が法的に有効になる)を 満たしていると認識するやむをえない事情がある場合のみで、非常に条件が厳しいため、ほとんどのケースでは貸金業者は悪意の受益者となります。
つまりまとめると、グレーゾーン金利でお金を貸していた場合、貸金業者はほとんどのケースで過払い金に利息をつけて返還する必要がある、ということになります。
過払い金の利息、いくらもらえる?
では、実際に過払い金の利息はいくらもらえるのでしょうか。
これに関しては、民事法定利息と商事法定利息どちらを適用するか過去に裁判になった例があります。
民法404条「民事法定利率」では、“利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする”とされていて、年5%の利息を認めています。
ところが、商法514条「商事法定利率」では、“商行為によって生じた債務に関しては、法定利率は、年6分とする”となっており、できるだけ多くの過払い金を返還してもらいたい債務者が、この商事法定利率を根拠に年6%の利息を請求することが多かったのです。
しかし、平成19年2月最高裁判決によって「過払い金の利息は年5%」と決着がつきました。
判決条分には、「借主保護の目的で設けられた利息制限法の規定によって生じた債権に営利性はないため、商行為によって生じた債権とはいえない」とあります。つまり、過払い金を請求する行為は商行為ではないので商法514条は当てはまらない、という解釈です。
この判決以後は、過払い金の利息は年5%で請求するのが一般的となりました。
・利息はいつからつくか
ちなみに、この利息とは一体いつから発生しているのでしょうか。
こちらに関しても債務者側の「過払い金発生と同時に利息も発生」と、貸金業者側の「最終取引時点(完済して取引が終了した時)に発生」の2つの意見がありました。当然ながら、期間が長い方が利息金も多くなりますので、少しでも発生期間を長くしたい債務者と発生期間を短くしたい貸金業者の間で争点となりやすいポイントでしょう。
こちらに関しても、平成21年9月4日の最高裁判決で“悪意ある貸主は過払い金発生の時から民法704条前段所定の利息を払わなければならない。”として、過払い金の発生時から利息が付くと認められました。
そのため、過払い金を請求する場合には過払い金のほかに“利息5%を過払い金発生時から起算”して請求できるようになります。
過払い金返還請求で気を付けたいポイント
さて、以上の説明から「過払い金が発生していると分かったら、請求時期を引き延ばした方が利息がたくさんもらえてお得なのでは・・・」と思った方もいるかもしれません。
ですが、過払い金はすぐにでも返還請求をすることをおすすめします。なぜ早く返還請求をする必要があるのか、気を付けたいポイントをご紹介しましょう。
・過払い金返還請求には時効がある
過払い金は最終取引日から10年経過すると時効となってしまい、過払い金返還請求をする権利を失ってしまいます。ご自分の最終取引日がいつかはっきりと分からない場合も多いので、なるべく早く専門家に相談することをおすすめします。
・倒産した業者からは返還されない
以前に取引をしていた貸金業者が倒産してしまった場合には、過払い金返還請求をする請求先がなくなってしまいます。たとえ大手の貸金業者でも2010年に武富士が事実上の倒産をしたように、いつどの貸金業者が倒産してもおかしくありません。
・過払い金に充てる社内予算は年々縮小傾向にある
過払い金返還請求が話題になったことで、多くの債務者が貸金業者へ過払い金返還請求を行いました。そのため、過払い金の支払いが経営に大きなダメージを与えた貸金業者も少なくないのです。
過払い金に充てる予算は縮小傾向にあるので、裁判なしの和解では過払い金満額が支払われる可能性は少ないでしょう。
・民法705条によって請求権がはく奪されることもある
民法705条“債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない”とあります。
つまり、過払い金が発生していたことを知りながらそのまま返済を続けていた場合には、その過払い金は返還されないのです。
少しでも多くの過払い金をもらいたいからといって、返還請求をしないまま返済行為を続けてしまうと、過払い金返還請求をする権利を失ってしまうので注意しましょう。
このように、過払い金を返還してもらうには、いくつかのポイントに注意して迅速に返還請求を行う必要があります。自分には過払い金返還請求をする資格があるのか、その場合いくら返還請求をできるのかなど、とても複雑な計算をしなくてはいけません。