過払い金請求をすれば、数百万円以上の過払い金が戻ってくることもあります。そのため、借金の返済に長く苦しんでいる方のなかには、過払い金請求に興味がある方も多いのではないでしょうか?
しかし、過払い金請求をした場合に、税金がかかるケースもあることは注意しなければなりません。
もし、税金がかかるケースがあることを知らずに過払い金請求をした場合、損をする可能性があります。
そこでこの記事では、
- 過払い金請求をした場合に税金がかからないケースと税金がかかるケースの違い
- 納税しなければならない場合にどのように納税するのか?
- 過払い金請求の手順や費用
などなど、過払い金請求をした場合に課税されるのかどうか解説します。
過払い金請求をしても過払い金自体には税金はかからない
過払い金請求をしても、過払い金自体には税金がかかりません。なぜなら、過払い金は、所得として得た収入ではなく、支払いすぎた借金だからです。
このことは、国税庁のホームページにも明記されています。
過払分として返還された制限超過利息は、利息として支払った金銭のうち払い過ぎとなっている部分について返還を受けたものであり、所得が生じているものではありません。このため、制限超過利息の支払額が各年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されている場合を除き、課税関係は生じません
(データ引用元:返還を受けた利息制限法の制限超過利息|国税庁)
そのため、過払い金が戻ってきたからといって、所得が入ってきたわけではないので、税務署から指摘が入ることはないです。
ただし、必ずしも過払い金請求をした際に税金がかからないというわけではなく、ケースによっては税金がかかることもあります。
過払い金請求をしたときに税金がかかる2つのケース
過払い金請求をしたときに税金がかかるケースは以下の2つです。
- 過払い金請求で受け取った利息が20万円を超えた場合
- 生活保護を受けている状態で過払い金請求をした場合
過払い金請求で受け取った利息が20万円を超えた場合
まず過払い金に利息をつけて請求を行うと、過払い金の利息には税金がかかる可能性があります。
そして、受け取った利息が20万円を超えた場合は、課税の対象です。
国税庁のホームページでも、過払い金として戻ってきたお金の利息については、雑所得として課税対象になると記載されています。
返還金に付された利息については、その支払を受けた日の属する年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入する必要があります。
(データ引用元:返還を受けた利息制限法の制限超過利息|国税庁)
実は過払い金請求は利息つきで請求することができます。
民法704条では、悪意の受益者は受けた利益に利息をつけて返還をしなければならないと定められています。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。(データ引用元:民法第704条|e-Gov)
平成19年7月13日の最高裁判決では、利息制限法を超える利率でお金を貸した貸金業者について悪意の受益者として認めています。
そのため、過払い金請求を行うときは、利息をつけて請求できるのです。
なお、平成19年2月13日の最高裁判決により、過払い金請求をする際の利息については、民法に定められた年5%が相当という判断が出ています。
このように、過払い金に利息をつけて請求を行った場合、返還された利息分については、税金がかかるので注意しなければなりません。
ただし、課税対象になるのは、給与所得や退職所得以外の所得の金額が20万円を超えている場合です。
したがって、過払い金の利息が20万円を超えていない場合やほかの所得と合わせても、20万円を超えていないのあれば税金はかかりません。
生活保護を受けている状態で過払い金請求をした場合
生活保護を受けている状態で過払い金請求をした場合は、戻ってきた過払い金全額に対して税金がかかるので注意してください。
なぜなら、過払い金請求によって得た金額が一時的な所得とみなされるからです。また、生活保護は、所得がない人に対しての制度です。そのため、過払い金請求により所得を取得したことで、生活保護の受給が停止される可能性もあるので、注意が必要です。
利息つきで過払い金請求をしても税金がかからないケースもある
利息つきで過払い金請求をしても、必ずしも税金がかかるわけではありません。
では、どのようなケースであれば、税金がかからないのでしょうか?
自分で過払い金の利息を請求しても貸金業者は応じてくれない
まず、過払い金請求をする場合、以下の3つの方法で請求を行うことが可能です。
- 自分で請求をする
- 弁護士に依頼して請求をする
- 司法書士に依頼して請求をする
自分で利息をつけて過払い金請求をした場合、和解による過払い金請求に応じても、過払い金の利息の請求には応じることはほとんどありません。
金融機関など債権者の立場から考えると、過払い金請求をされるだけでも、大赤字です。過払い金に利息までつけて返したくないのが本音です。
また、自分で過払い金請求をした場合、債権者との交渉もすべて自分に行う必要があります。そのため、交渉に応じてくれない債権者も多いです。
結果、過払い金請求が成功しても過払い金自体しか取り戻せないため、税金が課されることはないのです。
過払い金の利息より弁護士費用が高ければ、課税対象にならないこともある
利息つきで過払い金請求をしたときでも、弁護士費用が過払い金の利息よりも高い場合は、課税対象にならないこともあります。
過払い金の利息が5%であることを考えると、過払い金の利息から弁護士費用を引いた課税対象金額が20万円を超えるケースは少ないといえます。
ただし、税務署によっては、弁護士費用が経費として認められない可能性もあるので注意が必要です。
過払い金の利息を回収する際の弁護士費用は経費にできる可能性がある
過払い金の利息を回収した場合、過払い金に対する利息の割合に応じて、弁護士費用を経費にできる可能性があります。
たとえば、過払い金請求を行い、過払い金540万円と利息分60万円を取り戻し、弁護士費用として120万円支払った場合で考えてみましょう。
まず、過払い金のうち利息の割合は上記の計算式で求められます。
過払い金利息60万円を過払い金600万円で割った10分の1が経費の割合です。弁護士費用が120万円なので、10分の1の12万円を経費にできます。
したがって、過払い金の利息のうち、税金の対象になるのは、過払い金利息から経費を引いた12万円です。
ただし、必ず弁護士費用を経費にできるわけではなく、税務署の職員により対応が違います。また、個人事業主のように自分で事業をしていて、借金の利息を経費にしていた場合は、弁護士費用を経費にはできないため注意が必要です。
過払い金請求をして税金がかかったときの納税方法
過払い金請求をして税金がかかったときに、どのように納税すれば良いのでしょうか?
また納税しない場合は、どうなるのかについて解説します。
過払い金の利息が20万円以上かかった場合は確定申告をする
過払い金請求の利息は雑所得に含まれます。そのため、過払い金利息合計が20万円以上の場合は、確定申告をしなければなりません。
会社員が確定申告をする場合、以下の手順に沿って手続きを行います。
- 過払い金の利息として取り戻した金額を確認する
- 確定申告書を入手する
- 会社からもらう源泉徴収票を用意する
- 確定申告書に記入する
- 期限までに郵送や電子申請などで申請を行う
まず、確定申告書を入手する必要があります。確定申告書は、以下の場所で入手可能です。
- 国税庁のホームページ
- 税務署の窓口
- 確定申告会場
毎年12月末〜1月にかけて会社からもらう源泉徴収票も用意しておきましょう。
確定申告書に給与金額の記入欄とは別に雑所得の記入欄(画像のピンク枠)があるので、過払い金請求の利息として受け取った金額から経費を引いた金額を記入します。
(データ引用元:申告書A【令和元年分以降用】|国税庁)
あとは、期限までに郵送や電子申請などの方法で確定申告書を提出すれば完了です。
なお、確定申告の申請期限は、毎年2月15日〜3月15日までの間です。やり方がわからない場合は、税務署の窓口や確定申告会場に行けば、教えてもらえます。
ただし、毎年確定申告の時期になると、相談者で混雑するので余裕を持って相談することをおすすめします。
過払い金の利息は雑所得として計上する
過払い金の利息は雑所得として計上します。過払い金の利息だけでなく副業などをやっている場合は、それらの金額も合わせて計上しなければなりません。
納める所得税は、以下の表にもとづき、給与収入と他の所得の合計から経費や控除額を引いた課税所得金額によって決まります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97500円 |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427500円 |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636000円 |
900万円を超え1800万円以下 | 33% | 1536000円 |
1800万円超 | 40% | 2796000円 |
(データ引用元:No.2260 所得税の税率|国税庁)
たとえば、課税所得が450万円の場合に支払わなければならない所得税は、上記のように計算します。
つまり、この場合の所得税は472500円です。
このように過払い金請求をして、過払い金だけでなく利息も取り戻した場合は、確定申告で雑所得として計上する必要があります。
過払い金の利息を申告しなければ罰則の対象になる
過払い金の利息を申告しなかった場合は、無申告加算税の対象になります。
たとえば、納付すべき金額が50万円以下の場合は、納付すべき金額に15%をかけた金額を支払わなければなりません。
確定申告は必ず行いましょう。隠蔽や偽装など悪質と認められれば、最大40%も税金が加算されます。
罰則の種類 | 罰則内容 |
---|---|
無申告加算税 | ・納付金額が50万以下の場合は、15%を掛けた金額 ・納付金額が50万円を超えている場合は、20%を掛けた金額 ・税務調査の前に自主的に期限後申告すれば、納付金額×5%になる ・税務調査の事前告知後、税務調査を受ける日までに申告すれば、納付金額が50万円までの部分に10%の無申告加算税、50万円を超えた金額には15%の無申告加算税が課される |
延滞税 | ・納付期限までの期間および納付期限と翌日から2か月までは、年7.3%もしくは特例基準割合+1%の低い方※1 ・納付期限の翌日から2か月以降の場合は年14.6%or特例基準割合+1%の低い方※2 |
重加算税 | ・悪質な隠蔽や偽装があったときに課される ・申告していれば35%が加算される ・無申告では40%が加算される |
※1:令和2年1月1日〜12月31日までは、2.6%
※2:令和2年1月1日〜12月31日までは、8.9%
過払い金請求の手順や費用
過払い金請求をしたいけど、過払い金請求の手順や費用がわからないという方もいるでしょう。
そこで過払い金請求の手順や費用について解説します。
過払い金請求の手順
過払い金請求を行う手順については以下の通りです。
- 弁護士事務所に相談
- 金融機関など債権者に過払い金請求を行う旨を通知
- 金融機関など債権者に取引履歴の開示請求を行う
- 過払い金の引き直し計算を行う
- 弁護士が金融機関など債権者と交渉を行う
- 和解が成立or裁判へ
- 過払い金が返還される
まず、過払い金請求を行う場合は弁護士に相談をします。契約を結んだ後、弁護士が金融機関など債権者に対して受任通知を送ります。
受任通知は過払い金請求や債務整理を行う際に送るものです。受任通知が届き次第、貸金業者などからの督促や取り立てがストップします。
同時に、過払い金を計算するために、過去の取引履歴についての開示請求も行います。
取引履歴到着後、過払い金の引き直し計算を行い、過払い金請求ができるか確認します。
弁護士に過払い金請求を依頼すれば、金融機関など債権者との交渉はすべて弁護士が行います。
交渉の結果、和解か裁判で過払い金が決まります。なお、過払い金の利息まで取り返したい場合は、和解ではなく裁判で決着をつけなければなりません。
過払い金を取り戻せるまでの期間 | 取り戻せる過払い金の金額 | |
---|---|---|
和解をした場合 | 3か月〜6か月前後 | 満額にならない |
裁判をした場合 | 6か月〜1年前後 | 満額も可能 |
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過払い金請求の費用
過払い金請求をするときに気になるのが、費用がどのぐらいかかるかという点です。
では、過払い金請求の費用はどのぐらいかかるのでしょうか?
相談料 | 5,000円〜1万円 |
---|---|
着手金 | 1社あたり1万円〜2万円 |
基本報酬 | 1社あたり2万円〜3万円 |
過払い金報酬 | ・和解の場合、過払い金額の20% ・裁判の場合、過払い金額の25% |
過払い金請求を弁護士に依頼した場合、さまざまな費用がかかります。着手金と基本報酬は1社ごとに費用がかかるので、注意が必要です。
着手金無料の弁護士事務所もあるので、複数の債権者に対して過払い金請求をする場合は、よく考えて選びましょう。
なお、過払い金報酬については、裁判よりも和解で解決した方が費用を抑えられます。しかし、和解は裁判よりも取り戻せる過払い金が少ない傾向があります。
そのため、和解にするよりも裁判したほうが、弁護士報酬を引いても多くの過払い金が残るケースが多いです。
すぐに解決するからという理由で安易に和解するのではなく、裁判まで進んだ場合とどちらが得なのか考えましょう。
和解か裁判かで迷ったときは、弁護士とよく話し合って決めるべきです。
過払い金請求をするときの注意点
過払い金請求をするときには、注意点があるので把握しておきましょう。
まず過払い金請求が認められるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 借金完済から10年が経過していない
- 利息制限法の上限である15%〜20%を超えた利息で借金をしたことがある
したがって、過払い金の引き直し計算をしても、請求できる過払い金がないこともあるのです。
また過払い金請求をしようとしても、金融機関など債権者が倒産しているケースもあります。債権者が倒産していたり経営状態が著しく悪化していたりする場合は、想定していた金額よりもはるかに少ない過払い金しか取り戻せないこともあります。
そのため、過払い金を請求できるのであれば、なるべく早めに請求しておくべきです。
過払い金請求をするなら司法書士よりも弁護士がおすすめ
過払い金請求をするなら、司法書士よりも弁護士に依頼することをおすすめします。
なぜなら、弁護士と司法書士では、過払い金の金額や借金により対応できる業務内容に大きな違いがあります。
弁護士ができる業務 | 司法書士ができる業務※ | |
---|---|---|
借金および過払い金が140万円以下の場合 | ・相談 ・債権者との交渉 ・訴訟 |
・相談 ・債権者との交渉 ・訴訟 |
借金および過払い金が140万円を超える場合 | ・相談 ・債権者との交渉 ・訴訟 |
・訴訟だけでなく、相談などもできない ・書類の手続きのみ可能 |
※司法書士のなかでも認定司法書士のみ
司法書士の場合、司法書士法3条1項7号により、借金や過払い金額が140万円を超えた場合は過払い金についての相談だけでなく、債権者との交渉をしたり訴訟を起こしたりすることができなくなります。
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
民事に関する紛争(簡易裁判所における民事訴訟法の規定による訴訟手続の対象となるものに限る。)であつて紛争の目的の価額が裁判所法第三十三条第一項第一号に定める額を超えないものについて、相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること。(データ引用元:司法書士法第3条1項7号|e-Gov)
第三十三条(裁判権) 簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)(データ引用元:裁判所法第33条1項1号|e-Gov)
さらに、借金や過払い金額が140万円を超えておらず、簡易裁判所で過払い金請求の裁判を行った場合でも安心できません。
金融機関など債権者が簡易裁判所の判決に不服を申し立てた場合は、裁判は地方裁判所で行われるからです。
そもそも司法書士が裁判を起こせるのは、簡易裁判所のみです。もし地方裁判所に裁判が移動した場合、自分で裁判を引き続き行うか、新たな弁護士を探さなくてはなりません。
そのため、過払い金や借金額が140万円以下でも、安心できないのです。
また、過払い金は長期間放置されているケースが多いです。現在の借金額が数十万円だから司法書士に頼んでも大丈夫と考えていたところ、引き直し計算をしてみると数百万以上の過払い金があることがわかるケースも珍しくありません。
そのため、過払い金請求をするなら弁護士に依頼することをおすすめします。
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おわりに
過払い金請求をした場合、過払い金自体に税金がかかることはありません。しかし、過払い金の利息には、税金がかかるため確定申告をする必要があります。
過払い金請求をする際に、税金がかかることを知らなければ、後々焦ることになるかもしれません。
そのため、過払い金請求をする前に弁護士に相談することをおすすめします。