総量規制とは、貸金業者に借金をする場合の「借入総額」について決められたルールのことです。貸金業者が過剰に貸付けをすることを防ぐために定められたルールですが、これは例外もあり、ルールの対象外である会社や商品もあります。
また、総量規制により借金できなくなり困る人もいます。例えば、返済のために新たに借金をしようと考えていた人はどうすればよいのでしょうか。
今回は、総量規制の仕組みや適用される会社、規制の例外などを解説するとともに、総量規制によって借金ができなくなった場合の対処法もご紹介します。
総量規制とは
総量規制とは、借金をする際、年収の3分の1までしか借金が出来なくなるという規制のことを言います。
総量規制は、2010年6月に貸金業法の第十三条のニによって定められました。
第十三条の二 貸金業者は、貸付けの契約を締結しようとする場合において、前条第一項の規定による調査により、当該貸付けの契約が個人過剰貸付契約その他顧客等の返済能力を超える貸付けの契約と認められるときは、当該貸付けの契約を締結してはならない。
(引用元:貸金業法の第十三条のニ|e-GOV)
総量規制は、消費者が過剰に借金できる環境を規制し、多重債務者が増えることを防ぐ狙いで導入されたものです。しかし、総量規制によって、狙いとは逆に借金の返済ができなくなった人が増えたと言われます。
多重債務者に陥る人は、今抱えている借金を返済するために別の貸金業者から借金を利用するという、いわゆる自転車操業によって借金返済している人が多く、借金の総量規制によって、借り増しが規制に引っかかってしまい、借金の返済が不能になってしまうのです。
総量規制によって返済が困難になった場合も、法的な手続きで解決できるかが問題になります。
総量規制における「貸金業者」とは
総量規制が対象としている貸付けは、貸金業者が行う貸付けです。そのため、貸金業者に該当しない会社である銀行などが扱うローンや、信販会社のショッピングクレジットは総量規制の対象にはなりません。
貸金業者とは、資金を貸付けており、国の財務局や都道府県に登録されている業者のことです。具体例をあげると、消費者金融や事業資金の貸付けを行っている事業者向け金融、クレジットカード会社などの業者が登録されています。反対に、銀行や信用金庫、信用組合、労働金庫なども貸付け事業を行っていますが、これらの業者は預金などの業務も行っており、貸金業者に該当しません。
総量規制は年収の3分の1
総量規制は、借りる人の年収や貸付けを行う業者によって規制されるかどうか決まってきます。
総量規制では、返済能力を超えた貸付けにあたるかどうかは、ローンを組む人の年収の3分の1を超えるかどうかが重要な判断基準になります。
例えば、自分の年収が300万円だった場合、貸金業者からの借金は100万円までしかできないということになります。
しかし、この「年収の3分の1まで」という基準はあくまでも法律上の上限であり、実際に借りられる限度額は総量規制の基準内で貸金業者が決めた額までになります。なお、貸金業者が決められる限度額はあくまで総量規制の基準内であるため、総量規制の基準を下回る額までしか貸さないことはあっても、基準を超えたが額を貸すことはあり得ません。上限額はそれぞれの貸金業者によって異なりますので、借りる前に確認しておきましょう。
複数業者からの借入の扱い
これからローン契約をしようとしている人の中には、すでに複数の貸金業者から借金をしていることもあります。そのような場合は、借入額すべてを合計し、その総額が総量規制の範囲内かどうかを見ることになります。
貸金業者はローンなどの申し込みを受けると、指定信用情報機関に対して申し込みを行った人の信用情報を照会する決まりがあります。この信用情報の照会によって、申し込みを行った人が借入している総額を確認できるため、総量規制を逃れて借金はできません。
なお、貸金業法で決められている総量規制の対象には、消費者金融だけでなくクレジットカード会社や信販会社も入っています。そのため、消費者金融からの借金とクレジットカードによるキャッシングなど異業種から複数借金をしていた場合も、合算した額が総量規制の対象とされます。
総量規制対象外のローンとは?
総量規制は全ての借金が対象となるわけではなく、対象外となるものもあります。ここでは、総量規制の除外、例外、対象外となる借金についてを解説します。
総量規制の「除外」にあたるもの
いくつかの貸付けは、総量規制による規制がなじまない貸付けとされています。これらの貸付けは総量規制の「除外貸付け」という位置づけになり、総量規制とは関係なく借入れが可能です。つまり、申し込みを行った者の年収などの基準が適用されないことになるのです。
また、これらの総量規制の除外貸付けに該当する借入額は借入残高に算入されないため、他の借入にも総量規制上の影響は与えません。
総量規制の除外貸付けに当たるものは、主に以下の貸付けです。
①不動産購入のための貸付け(いわゆる住宅ローン)
②自動車購入時の自動車担保貸付け(いわゆる自動車ローン)
③高額療養費の貸付け
④有価証券を担保とする貸付け
⑤不動産(個人顧客または担保提供者の居宅などを除く)を担保とする貸付け
⑥売却予定不動産の売却代金により返済される貸付け
住宅ローンや自動車ローンは総量規制の「除外」に該当する
不動産担保ローンは総量規制から除外されます。土地や建物、駐車場や借地権などのローンも同じく除外されています。ただし、契約者が個人であり、かつ担保不動産が自宅の場合、例外的に総量規制の対象と見なされますので注意しましょう。
不動産のローンは、カードローンなどの無担保で契約するローンに比べ、高額なお金を低金利で最長35年ほどの長期で調達できる商品です。銀行やノンバンクも含め、多くの金融機関等が不動産担保のローンを消費者に提供しています。
無担保ローンは担保も保証人も必要ないため、ローンを組んだ人が返済不能になった場合、貸金業者も資金を回収できなくなってしまうため、高額の融資は厳しくなります。しかし、不動産に関しては年収の3分の1を超える融資も世間から需要があるため、不動産担保ローンは一定の資産を担保とすれば総量規制の対象外とし、年収の3分の1を超えてもローンを組めるのです。
なお、金利や返済期間、返済回数などの各種条件は扱っている金融機関に問い合わせてください。
自動車ローンも同様に、総量規制の対象からは除外されています。自動車のローンも年収の3分の1を超える融資を受ける可能性は高い商品ですが、総量規制を気にせずローン契約できます。ただし、当然総量規制以外の基準で審査に通過する必要はあります。
総量規制の「例外」
特定の貸付けは、総量規制の例外とされています。これらの貸付けは消費者の利益を保護する際に支障が生じる心配がないとされており、総量規制における例外貸付けに分類されています。
総量規制にかかわらず借入れは可能ですが、借入額が借入残高に算入されますので、借入残高が総量規制の基準を超過した場合、その後、「除外貸付け」や「例外貸付け」を除いて借入れができなくなります。
①顧客に一方的に有利となる借換え
②借入残高を段階的に減少させるための借換え
③顧客やその親族などの緊急に必要と認められる医療費を支払うための資金の貸付け
④社会通念上 緊急に必要と認められる費用を支払うための資金(10万円以下、3か月以内の返済などが要件)の貸付け
⑤配偶者と併せた年収3分の1以下の貸付け(配偶者の同意が必要)
⑥個人事業者に対する貸付け(事業計画、収支計画、資金計画により、返済能力を超えないと認められる場合)
⑦新たに事業を営む個人事業者に対する貸付け(要件は、上記⑥と同様。)
⑧預金取扱金融機関からの貸付けを受けるまでの「つなぎ資金」に係る貸付け(貸付けが行われることが確実であることが確認でき、1か月以内の返済であることが要件)
銀行は総量規制の「対象外」
総量規制は、預金や為替機能を持たない金融機関が銀行での借り入れを対象としています。そのため、預金機能などを有する銀行からの借入は総量規制の対象外とされています。これにより、消費者金融から借金ができなくなっても、銀行カードローンからは借金ができるということがあります。
しかし、消費者金融からの借入に総量規制がかかり、仕方なく銀行カードローンで借金をするということは、実質的には収入に見合わない借金をしているということになります。また、借金を返済するために新たに借金をするということは、多重債務に陥る危険性があり、返済に困って債務整理をするリスクも高まりますので、借入の際には十分に注意が必要です。
よって、消費者金融からの借金が総量規制に引っかかる場合は、銀行からの借り入れも他の貸金業者の基準に準拠し、3分の1程度の金額までにとどめることが多重債務などを防ぐために必要です。
法人、個人事業主は総量規制の対象外
総量規制は個人向けの貸付けについて決められたものです。そのため、法人の場合は総量規制の対象外となります。
法人が借入を行う際には、総量規制の対象外になりますが、会社の事業計画やキャッシュフローの内容が審査された上で、金融機関が判断した上限額までの貸し出しが行われます。
また、個人事業主の場合は、年収の3分の1を超えた借入であっても、金融機関によって返済能力があると判断された場合は、総量規制の例外として借りられることがあります。
総量規制を考える上で知っておきたいこと
ここでは、総量規制を考える上で知っておくべきポイントを解説します。
総量規制以前の借金を過払い金請求することはできる?
総量規制が法律により規制されたのは2010年からであり、それ以前は規制は存在していません。2010年以前は年収の3分の1以上の借入であっても制限がなかったため、現在のような収入条件を超えても借金することも可能でした。
2010年以前の借り入れは、利息制限法という法律の上限金利を上回る金利で返済していたケースもあるため、過払い金が発生している可能性があります。
過払い金は一般的に借入金額が大きいほど発生しやすく、返済が長期化すればするほど高額になる傾向にあります。
もし2010年の総量規制以前に借金をしており、今も返済中の場合は、過払い金請求をすることで、借金返済の負担を減らしたり、返還された額によって借金を0にするこも可能です。
総量規制に違反した貸金業者は行政処分の対象になる
総量規制以上の借入ができたとしても、借入側には一切罰則はありません。一方で、総量規制以上に貸付けを行った貸金業者には行政処分が科されることになります。
行政処分を科されると、貸金業者は貸付けなどの業務ができなくなることがあるため、貸金業者は規制を遵守しなければなりません。
行政処分には業務停止命令や許可取り消し処分などがあり、貸金業を営めなくなることもあるため、貸金業者はそのようなリスクは取りません。
しかし、たとえ総量規制の上限額以上にお金を借りていたとしても、借入そのものは無効とはならず、返済はし続ける必要があります。
これ以上借金ができず、既存の借金の返済に困っている場合は、任意整理などを行うことで返済を楽にする必要があります。
銀行のローンだからといって安心できない
先述の通り、銀行は預金などの機能を有しているため貸金業者とは見なされず、総量規制の対象外という扱いを受けています。そのため、消費者金融では借金できなくても、銀行のローンは組めてしまうという事態が生じます。
銀行と言うと消費者金融よりも良いイメージを持たれがちで、無理な貸付けは行われないはずだと安心している人もいます。しかし、銀行は年収の3分の1以上貸付けを行うことができるため、支払い能力に見合わない借金をしてしまうリスクがあります。
総量規制はあくまで銀行を対象外としていますが、銀行から借金をする際にもひとつの基準として考えておくと良いでしょう。
総量規制で借金やローンに問題が生じた場合の対処法
総量規制によってローンを組めずに困っている、借金の返済のための新たな借入ができないなど、困った場合の対処法を解説します。
ローンなどを組むことができずに困っている
総量規制は年収に見合った借入ができているかという家計のバランスに配慮した制度です。そのため、総量規制の上限まで借入をしている場合は、新たなローンなどを組むことをやめ、一度現在返済中の借金を完済するなどの対処をすることを優先しましょう。
消費者金融からの借金やクレジットカードのキャッシングなどは、毎月支払いを行うほかにも繰り上げ返済などに対応しています。そのため、会社員の場合は、ボーナスなどまとまった金額が手元に入ったら繰り上げて返済を行うことで、完済までの期間を短くすることが可能です。
また、総量規制の対象外である銀行では新たに借金ができる場合がありますが、年収の3分の1以上の借入は大きなリスクを伴います。複数の金融機関や貸金業者からの借入は多重債務に陥るリスクを増加させ、延滞や滞納をすると最悪の場合給料の差し押さえなどにまで発展します。総量規制に引っかかってしまった場合は、そもそもの家計の見直しが求められます。
借金の返済ができない場合は債務整理を
総量規制によって借金の借り増しができずに別の借金を返済できない場合は、そもそも借金が支払い能力を超えていると判断することができます。そのため、借金の借入先を探すよりも借金の減らし方を検討したほうが良いでしょう。
借金を減らすには、債務整理という手続きが必要です。
債務整理には、
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
の主に3種類の手続きが存在しますが、ある程度の収入があるなら任意整理がおすすめです。
任意整理の手続きをすると、弁護士などが貸金業者と直接交渉をして借金返済額や返済までの計画を決め直し、将来利息をカットして無理のない返済が行えるようになります。任意整理は個人再生や自己破産よりも手続きに時間がかからないため、長期間の利息の支払いに苦しんでいる人にはおすすめの手続きです。
また、任意整理は家族や会社にバレずに借金の整理を行うことができます。依頼した弁護士や司法書士が書類のやり取りの窓口になってくれたり、連絡手段に配慮してくれることで、配偶者や親族にバレることなく利息のカットなどができるのです。
特に総量規制ギリギリまで借金をしている人であれば、多額の借金や多重債務状態になっている人もいると考えられ、周囲にはバレたくないでしょう。任意整理では家族に迷惑をかけずに返済の負担も抑えられるため、安定した収入がある人にはメリットが大きい手続きです。
一方で、任意整理をすると、他の債務整理と同様、信用情報に事故情報が記録されて、いわゆるブラックリスト入りをした状態になってしまいます。ブラックリスト入りすると、銀行や消費者金融からの借金やローン審査、携帯電話の分割払いなどの審査には通らなくなります。任意整理の場合は、約5年間ブラックリストに情報が登録され、借入などの行為が制限されます。
しかし、任意整理によって新たな借入は出来なくなるものの、元から総量規制に引っかかり借り増しができないような場合は、その後返済が滞りどのみちブラックリスト入りをしてしまう可能性があります。また、滞納によってブラックリスト入りした場合は、新たな借入の制限だけでなく、貸金業者などからの督促や一括請求、給料の差し押さえなど、その後多くの事態が待っています。
任意整理をすれば貸金業者からの督促も止まり、返済も楽になるため、過度にブラックリスト状態を恐れるよりも早めに対処した方が無難でしょう。
任意整理は弁護士に相談しよう
総量規制ギリギリまで借入をして返済に困っている場合は、弁護士に依頼して債務整理の手続きを検討してみましょう。
現在の状況にアドバイスしてくれる
弁護士や司法書士であれば、無料で相談やアドバイスをしてくれます。総量規制の上限ギリギリまで借金をしている場合は、多額の借金や多重債務に悩まされ、場合によっては督促を複数回受けている人も少なくありません。
任意整理をためらっている人は、現在の借金の状況や今後の展望、心配事などを詳細に伝え、適切な手続きをしてもらいましょう。
また、借金額や状況によっては任意整理以外の債務整理の手続きをとった方が良い場合もありますが、弁護士や司法書士に相談すればベストな解決策を提案することができます。
任意整理は手続きのコストが少ない
債務整理の中でも任意整理は裁判所を介さずに行う手続きであり、専門家である弁護士や司法書士と貸金業者との交渉だけで解決することを目指します。そのため、裁判所との郵送でのやり取りや大量の書類を作成する必要はなく、個人再生や自己破産よりも手続きが簡単です。
また、任意整理の手続きをした時点で貸金業者からの督促も止まるため、精神的に追い詰められることなく、安心して借金の整理ができます。借金を複数の業者から借りていたり、返済能力以上の借金をしている場合、督促を恐れ、解決を先送りしている人も多くいます。しかし、任意整理をすれば素早く手続きができ、督促も止まるため状況を一気に変えることができます。
任意整理は弁護士や司法書士が家族や会社にバレないように配慮できるため、家庭など周囲への影響が最小限であることもメリットです。郵送や連絡手段、事務所での説明なども周囲に不審がられないように対策してくれるため、こっそり借金を完済できます。
借金問題は早期解決が求められる
多重債務や多額の借金は遅延損害金の発生や督促、一括請求、差し押さえなど様々な経済的リスクを抱えており、一刻も早く解決する必要があります。任意整理であれば、手続きのコストや生活への影響を最小限に抑え、借金問題の早期解決に向け前に進むことができます。
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おわりに
総量規制は、貸金業者に借金をする場合の借入総額について決められたルールのことであり、借入を行う人の収入の3分の1までとされています。しかし、総量規制が対象とする貸金業者は消費者金融やクレジットカード会社などであり、預金機能を備えた銀行や多くの資金を必要とする不動産ローンについては対象とされていません。
また、銀行は消費者金融より一般的に信頼度が高いと思われがちですが、総量規制の対象とならないため自分の支払い能力以上に貸付けを行うことができるため、借入の際は注意が必要です。
総量規制の上限に引っかかってローンや新たな借金ができない場合は、無理に銀行などから借入をするのではなく、自分の収支を見つめ直し改善することが求められます。
また、総量規制に引っかかって新たな借金ができず、既存の借金を返済できないという首が回らない状態になった場合は、そもそもの返済額を減らす債務整理を検討する必要があります。
債務整理の中でも任意整理であれば、周囲に知られることなく手続きや返済をすることが可能です。