親から遺産を相続する際に借金が見つかった場合、相続すると大きな負債を抱えてしまうのではないかと不安になる人がいます。借金が不安で相続放棄の手続きを進めてしまい、手元に残せたはずの財産を失ってしまうケースもあります。
しかし、相続する借金の中に過払い金が発生していた場合、借金を減らしたりゼロにできる場合があります。
過払い金請求はデメリットが少なく、メリットが多い手続きです。残された借金より過払い金の方が多ければ、財産を相続することが可能になり、相続放棄をする必要はなくなります。
今回は、相続する遺産に借金が含まれていた場合の対処法、注意点、具体的な手続きについて解説していきます。
相続人なら過払い金請求が可能
親などの遺産を相続する相続人であれば、借金だけでなく過払い金請求の権利も得ることができます。
過払い金と相続の関係
亡くなった親などの遺品整理を行う際、親が借金をしていたと後から知ることがあります。2010年以前は高い金利で貸金業者から借入をしていたというケースが非常に多く、親が過去にしていた借金に過払い金が見つかる場合は、相続人が取り戻すことができます。
過払い金請求は借金をした本人が行うことが原則になっていますが、借金をした本人が亡くなった場合は、過払い金の請求権は相続した人に移ります。そのため、相続人でも過払い金請求を行うことができます。
ただし、過払い金請求には時効が存在し、最後に取引をしてから10年が経つと、お金を取り戻せなくなってしまいます。親から相続した借金の過払い金請求は時効になることも多く、できるだけ早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。
過払い金がある場合は相続放棄しなくても良い
親などから遺産を相続すると、借金も相続する必要があります。相続の際にはすべての遺産を相続するか、放棄するかを選ぶことになります。多額の親の借金が見つかった場合などは、相続放棄を考えなければいけないケースもあります。
しかし、親の借金であれば、2010年以前の借金である可能性も高くなります。金利が高い時期に借りた借金であれば、過払い金が数百万円単位で戻ってくるという例もあります。
相続する財産よりも借金の方が明らかに多い場合には、相続に躊躇してしまう人もいますが、過払い金の方が借金よりも多い場合、相続したほうが得になります。親に借金があった場合は、できるだけ早く弁護士や司法書士に相談しましょう。
相続する借金に過払い金があるか調べる
親から相続する遺産に借金があるかどうかは不安になる人も多いでしょう。
相続する借金を調べる過程では、以下の要素が発生します。
- 被相続人に財産を調査する
- 過払い金の計算をする
- 借金の相続人を決定する
被相続人の財産調査から過払い金の計算まで
親などの亡くなった人(被相続人)の借入先が不明の場合、以下の方法で情報の確認を行います。
- 契約書や利用明細書、消費者金融などのカードを確認をする
- 信用情報機関から信用情報を調べる
これらの手続きは、法定相続人である配偶者、2親等以内の血族に該当する人のみ行うことができます。
また、必要な書類や経費は以下のものがあげられます。
- 申込書
- 手数料
- 手続きする人の本人確認書類
- 法定相続人であることが証明できる戸籍謄本(抄本でも可)
- 被相続人が亡くなった事実がわかる公的書類(抄本でも可)
どこの貸金業者と取引していたのか確認できたら、過払い金請求に必要な情報が記載された取引履歴の開示を請求します。
取引履歴が届いたら、現在の基準に照らし合わせて利息を再計算します。
過払い金が発生している場合は他の遺産とあわせてプラスになるか計算し、プラスになれば相続放棄をする必要がないと判断できます。一方、借金の方が多く残ってしまいマイナスになる場合は、相続放棄を検討することになります。
過払い金計算は複雑なため、正確な計算をするには法律などの専門知識が求められます。
特に、取引をした貸金業者が複数ある場合や、長期にわたって借入と完済を繰り返していた場合は、様々な条件を考慮する必要があるため計算が複雑になります。
個人で過払い金の計算をして誤った金額で過払い金請求をしてしまうと、後々大きな損失が生じる恐れがあります。過払い金の計算は弁護士や司法書士に依頼することをおすすめします。
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借金の相続人を決定する
過払い金請求する場合は、誰が手続きをするのか明確にする必要があります。
相続人が過払い金請求のパターンは、1人だけで請求する場合、複数人の中から1人を選ぶ場合、全員で請求する場合があります。
相続人が1人しかいない場合
単独で過払い金請求をするのは、相続人が1人しかいない場合です。
相続人は弁護士や司法書士に依頼するか、取引履歴を自分で取り寄せて過払い金請求することになります。
相続人が複数人いる場合
過払い金請求の権利を持つ相続人が複数いるときは、それぞれが個別に請求することも、相続人の中から代表者が請求することも可能です。過払い金請求ができる借金があると気付いた相続人だけ請求するといったことは許されません。
個別に過払い金請求をするときは、法定相続分に基づいて分配される割合分にしか過払い金請求ができません。また、個別に請求した場合は過払い金の一部しか返還されず、時効も止まりません。
一方、債権を譲渡するなどして代表者が過払い金請求をする場合、譲渡書などの作成が必要になりますが、過払い金の時効は停止します。
相続人全員の場合
相続人が全員で過払い金請求をすることもできます。
全員での請求には遺産分割協議などで相続人全員が請求に同意する必要があり、お互いに強調するように意思を統一することが重要です。全員で過払い金請求をするためには、相続人全員分の書類を作成・押印するなどの作業が必要です。
過払い金請求を希望する人が相続権の一部を取得する場合
過払い金請求を希望する人が相続権の一部分だけを取得し、請求することも可能です。過払い金請求できる金額は法定相続の取り分に準じます。
例えば、相続人が配偶者と子供2人のケースで、被相続人の過払い金を子供ひとりで単独で請求すると、返還される金額は法定相続分である4分の1になります。残りの4分の3は配偶者ともうひとりの子供が請求しない限り貸金業者に払う義務は発生しません。
この場合、残りの過払い金の時効も停止しないため、最後の取引から10年が経過すると時効が成立して取り戻せなくなってしまいます。
相続した借金に過払い金がある場合と過払い金がない場合
相続した借金を再計算した結果によって、その後相続するかどうかの対応が変わってきます。
- 借金より過払い金が多い場合
- 借金より過払い金の方が少ない、もしくは発生していない場合
- 完済した借金に過払い金が発生していた場合
借金より過払い金が多い場合
発生した過払い金で借金残高がゼロにできる場合、残った過払い金は相続した人のプラスの財産となります。そのため、借金より過払い金が多い場合はそのまま相続すると利益になります。
ただし、過払い金で取り戻せる額、借金の総額、財産の総額が正確に把握できていることが前提となります。
借金より過払い金の方が少ない、もしくは発生していない場合
過払い金請求をしても借金の方が多く残る場合は、結果として相続人が借金を返済しなければなりません。よって、過払い金よりも借金の方が多い、あるいは過払い金が発生しない場合は、相続放棄を選択する人が多くなります。
被相続人が借金していることを知らずに相続してしまい、後々借金に気づき後悔する人もいます。相続時には被相続人の財産をしっかり調査する必要があります。
被相続人に借金が残っていた場合は、過払い金と借金の額に注目しましょう。過払い金請求をしても借金が残ってしまうとブラックリストに載ってしまうので、注意が必要です。
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完済した借金に過払い金が発生していた場合
被相続人が完済した借金に過払い金が発生していた場合、相続した人が過払い金請求をすることができるため、後々プラスの財産になります。
被相続人の完済した借金を知らずに放置していることも多いです。
被相続人の完済した借金を過払い金請求することは、相続人からするとほとんどデメリットがありません。被相続人の財産調査をしっかり行い、早めに過払い金請求をしましょう。
過払い金と相続に関する知っておきたいポイント
過払い金を相続する際には、以下の3点に注意して行う必要があります。
- 過払い金には時効がある
- 過払い金請求をすると相続放棄できない
- 借金を相続して返済できない場合はブラックリストに載る
過払い金には時効がある
過払い金には消滅時効があり、最後の取引日から10年が経過するとお金を取り戻せなくなってしまいます。
これは、過払い金請求が「不当利得返還請求」に該当するためです。不当利得返還請求とは、民法167条で10年行使しないと消滅すると定められいるため、過払い金の請求も時効が10年になるのです。
また、時効になっていない場合も取引をしていた貸金業者が業績悪化で倒産してしまうと請求できなくなります。
2006年に過払い金に関する最高裁判決が出てから、業績悪化や全国での過払い金請求による影響で倒産する貸金業者が増加しています。消滅時効に余裕があるからといって放置せず、早めに過払い金請求をすることをおすすめします。
過払い金請求をすると相続放棄できない
相続人が過払い金請求をすると、相続放棄ができなくなります。
相続法における単純承認という行為に該当するため、相続を認めることになるためです。
過払い金が借金を上回る場合は、相続して過払い金請求した方がプラスになります。しかし、借金の方が多い場合にうっかり過払い金請求をすると、相続により損をしてしまうことになりるため、注意が必要です。
借金を相続して返済できない場合はブラックリストに載る
相続したの借金の返済ができない場合、被相続人名義で借入れやカード決済をしていたとしても、相続人の信用情報に悪影響があります。
相続人に向けた貸金業者からの請求書や督促状などを無視し続けていると、相続人自身が借金を延滞・滞納しているものと見なされ、ブラックリストにその旨が記載されてしまうのです。
ブラックリストとは、信用情報機関(CIC、JICC、全銀協)に登録される個人の借入などに関する事故情報のことです。
延滞などの事故情報が記載されると、新規クレジットカードの発行や更新、住宅ローンの契約などができなくなる可能性があります。
また、貸金業者から何度も請求があるにも関わらず放置してしまった場合は、相続人の財産が差し押さえの対象になります。
相続してから知らない借金が見つかり、自分に関係ないものとして放置してしまった場合、どんどん事態が悪化してしまいます。相続前に被相続人の財産調査をしっかり行うことが大切です。
相続した借金の過払い金請求手続き
相続した借金の過払い金請求をする際、過払い金請求を行う人数などによって手続きや必要書類が異なります。
ここでは、
- 遺産分割協議を始めるタイミング
- プラスの財産を調査
- 借金を調査
- 遺産分割協議書の記載内容
- 必要書類を集めて過払い金請求する
について具体的に見ていきます。
遺産分割協議を始めるタイミング
遺産分割協議とは、財産を相続する人全員が参加して分け方を話し合う協議です。
遺産分割協議が成立しない場合、いつまでも遺産を分けることはできません。相続が決まったらなるべく早く協議を始めましょう。
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です。まずは被相続人の生前の戸籍謄本類を集め、相続人調査という相続人が誰なのか特定する調査を行い、該当者を特定する必要があります。
プラスの財産を調査
被相続人にどのような財産があるかも把握する必要があるため、財産調査も実施する必要があります。
一般的に遺産の大部分は不動産と預貯金関係です。
不動産は所有していない場合も多くありますが、預貯金口座はほとんどの人が所有しています。遺産を探すには主に不動産と預貯金を調査することになります。
財産調査は、まず被相続人の預金通帳と郵便物を調査をします。
預金通帳にはお金の流れが記載されているため貯金額を把握できます。郵便物の内容を調べれば、財産を管理している金融機関、固定資産税の支払いをしている不動産の管轄市区町村などを把握できるため、該当機関に問い合わせをして遺産の調査をすることができます。
被相続人の遺産の中には、金融機関で作成した通帳やキャッシュカード、信託銀行や証券会社から届いた封筒から、取引先の金融機関支店名まで把握することが可能です。市役所や税事務所などから届く固定資産税の通知書は、被相続人が持っている不動産の特定にも役立ちます。
郵送されてくる固定資産税通知書には、不動産の地番や家屋番号が記載されており、その情報をもとに法務局で登記簿謄本を取得します。法務局への手続きはオンラインで行うことができるため、管轄する法務局までわざわざ出向く必要ありません。
借金を調査
借金についても、預金通帳や郵便物から調査をします。
定期的に引き落とされるお金や消費者金融、ローン会社などからの封筒もチェックする必要があります。銀行からキャッシングをしている場合は、銀行に問い合わせれば知ることができます。
また、住宅ローンも債務に該当するため相続の対象になります。
しかし、住宅ローンは団体信用生命保険に加入していれば、ローン会社が一括返済をしてくれるます。一括返済されると相続人は住宅ローンを支払う義務はなくなるため、必ず団体信用生命保険の請求手続きを行ってください。
遺産分割協議書の記載内容
相続人が全員合意して遺産分割協議をする際は、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産分割協議書には決まった様式はなく、パソコン、手書きどちらでも構いません。使用する用紙やペンも自由に決められます。
協議書には、預貯金や不動産などの特定された遺産、誰が遺産を取得するかを明記して人数分作成することが必要です。
また、協議の時点では見つかっていない遺産が後から見つかり、遺族間で分け前に関するトラブルになる事例も多く見られます。後で発見された遺産の取扱いも明記しておくと良いでしょう。
最後に、相続人全員が実印で署名押印をします。遺産分割協議は全員の参加が必要なため、参加者の押印が欠けていないかチェックしましょう。
必要書類を集めて過払い金請求する
遺産分割協議書の作成が終わったら、ようやく過払い金請求の手続きに入ります。
相続人が過払い金請求をするには、
- 亡くなった方の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書
- 相続放棄申述受理証明書
- 遺言書
などの書類が必要です。
上記以外にも、相続関係を説明する図や、相続人の戸籍抄本、被相続人の住民票(除票)、相続人の住民票などの書類が必要になる場合もあります。状況によって必要な書類は異なりますので、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
遺産の分割が決定した後にやること
遺産の分割が決定したら、過払い金請求だけでなく、各種名義の変更も必要になります。忘れず変更の届け出を出しましょう。
不動産の名義を変更する
不動産を相続する場合は、法務局に相続登記をしなければなりません。
登記の際には作成した遺産分割協議書が必要になります。協議書の他には、被相続人の生前に作成されたすべての戸籍謄本類、住民票の除票、相続人全員の印鑑登録証明書などもまとめて登記申請します。
これらの手続きは煩雑なため、遺産分割協議書を弁護士や司法書士に渡して相続登記を依頼すれば、多くの時間や手間を省くことができます。
また、登記申請時に法務局に「法定相続情報証明書」を発行してもらいましょう。この証明書があると、預貯金や株式の名義を変更する際に証明書として利用できます。
預貯金の名義を変更する
預貯金を相続した相続人は、預貯金の名義を変更するか、解約して払い戻しを受けます。
預貯金の預け入れ先である金融機関に遺産分割協議書を持ちより、名義変更や解約払い戻しの申請書を作成、提出しましょう。書類の作成自体はそれほど時間や手間はかかりません。
名義変更、解約払い戻し申請書の書式や必要書類は、各金融機関によっても異なります。金融機関の窓口などで問い合わせながら手続きを進めましょう。
株式の名義変更
被相続人が株式を保有していた場合は、相続人が株式の名義変更を行います。
株式の名義変更を行うには、相続人名義の証券口座を開設する必要があります。口座開設後、名義変更した株式を預け入れれば、被相続人の保有していた株式を引き継げます。
申請書や必要書類は証券会社ごとに異なります。担当者と相談しながら手続きを進めましょう。
相続した借金の過払い金請求は弁護士に相談
相談した借金の過払い金請求は、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すると、複雑な計算や煩雑な手続きを代行してくれます。
相続した借金の過払い金は手続きが複雑
相続した借金の過払い金を請求する場合、通常の過払い金請求よりも考慮する要素が多く、手続きが煩雑、複雑になります。
特に、相続人が複数いる場合、遺産分割協議を行ったり、ひとり分の過払い金額を計算し、請求する必要があります。
手続きだけでなく自分の過払い金がどのくらいあるのか、過払い金請求をすれば借金がゼロになるかなどの判断も難しくなるため、はじめから弁護士に依頼しておくと安心でしょう。
財産調査は必要不可欠
相続財産の大枠を決めるには、被相続人の財産調査が必要不可欠です。
相続財産がわからないままでは協議もできないため、過払い金の時効を迎える前に早めの対処が必要です。調査では銀行への照会や通帳の調査、不動産は権利証や固定資産税納税通知書の取得などは、、自分で行うと時間がかかってしまいます。
状況によってどのような書類が必要なのかも変わってきますので、財産の調査段階で弁護士に相談することをおすすめします。
過払い金が高額になる傾向がある
財産を相続する事例の多くは、親が高齢者です。そのため、被相続人の借金は長期間に渡ることが多く、80年代や90年代の金利は非常に高かったため、多くの過払い金が発生していることがあります。
被相続人がまじめに返済をしていた場合は、長期間、高金利での返済となっており、時効になる前に一刻も早く手続きをする必要があります。
過払い金を貸金業者に請求し、交渉する場合、個人で交渉をしても貸金業者に有利な条件で合意してしまう恐れがあります。弁護士であれば、相続人に有利な条件で交渉することが可能です。
また、少額の過払い金であれば司法書士でも扱えますが、過払い金の額が140万円を超えると弁護士しか相談や手続き、訴訟などができません。過払い金が高額になる場合は、はじめから弁護士に相談しておくと安心です。
おわりに
相続する際には、プラスの財産だけでなく借金も同時に相続してしまいます。
何もしらないで相続してしまうと、後々借金を背負ってしまい返済に追われることになりかねません。しっかり被相続人の財産を把握し、相続するかどうか決める必要があります。
被相続人の財産に借金が含まれている場合は、借金に過払い金がないかチェックしましょう。過払い金があれば、相続人が過払い金請求を行うことができ、借金と相殺された残りの部分が手元に返還されます。
また、被相続人が借金を完済している場合も過払い金請求はできるため、完済・返済中に関わらず過払い金の有無を確認する必要があります。
そして、相続人の過払い金請求までには、遺産分割協議などの手続きを終わらせておく必要があります。通常の過払い金請求よりも手続きが多く、複雑なため、はじめから弁護士に相談しておくとスムーズに進むでしょう。