住宅や車の購入費用や相続税の支払いをする際に、親から借金をしている方はいませんか?
親や友人・配偶者から借金をした場合、
- 出世払いで構わない
- 返済はいつでもいいよ
- お金は返さなくても大丈夫
などと言われて借金をするケースもあるのではないでしょうか?
ところが、なにげない借金をしただけにもかかわらず、突然税務署に親から借金をしたお金が贈与にあたるのではないかと指摘が入ることがあります。
この記事では、
- 親からの借金が贈与と疑われる4つのパターン
- 借金が贈与税の対象にならないためにするべき5つのこと
- 借用書の作り方や注意点
などを解説していきます。
この記事を読めば、親からの借金について、税務署から贈与の疑いをかけられることが少なくなるので、ぜひ読んでみてください。
親や友人・配偶者から借金をしたときに税金(贈与税)がかかることがある
親や友人・配偶者から借金をした場合に、思わぬ税金がかかることがあります。
たとえば、借金をしただけなのに、税務署から贈与を疑われることがあるので注意しなければなりません。
具体的には以下のようなケースで贈与を疑われることがあります。
- ローンの費用や借金を返済するために親からお金を借りた
- 友人から借金をした
- 夫婦で住宅ローンを契約して、配偶者の返済分をどちらかが肩代わりした
ケース1.ローンの費用や借金を返済するために親からお金を借りた
住宅ローンや車の費用は一度に多くの出費を強いられます。そのため、親から借金をして住宅ローンを組んだり、車の購入費用に充てたりする方も多いでしょう。
しかし、親だからという理由で借用書なしで借金をしたり、無利子で借金をしたりすると、税務署から贈与を疑われることがあります。
また、相続税の支払いなどその他の理由でお金を借りた場合も、贈与を疑われることがあるので注意しなければなりません。
ケース2.友人から借金をした
お金に困ったときに友人から口約束でお金を借りている方もいるかもしれません。友人からお金を借りる代表例は、起業をするための資金を借りること。
友人との付き合いもあり、口約束だけでお金を借りることは当たり前のように思われますが、起業資金を借りるとなると、100万円を超える金額を借りる可能性もあります。
借金の金額が高いにもかかわらず、借用書のやり取りがない場合、税務署は脱税のために借金をしたことにしようとしているのでは?と怪しみます。
そのため、友人から借金をする際も、贈与税と疑われないようにきちんと対策を行わなければなりません。
ケース3.夫婦で住宅ローンを契約して、配偶者の返済分をどちらかが肩代わりした
住宅ローンを組むときに夫婦が共働きの場合、共同で住宅ローンの支払いを行うことがあります。
しかし、妻が妊娠をして産休を取得すると、妻の収入が入らなくなる可能性もあります。
妻の収入が入らなくなれば、夫は、妻が支払っている住宅ローンの費用も一緒に返済しようとするでしょう。
ところが、夫が妻が支払うべき住宅ローンの費用を年間110万円以上支払った場合、税務署は贈与とみなし、贈与税の支払いを求めてくることがあるのです。
このように、親・友人・配偶者などからなにげなく借金をした場合でも、税務署から贈与を疑われる可能性があります。
したがって、親や友人・配偶者などからお金を借りるときは、借りたお金が贈与の疑いを受けないようにしなければなりません。
親からの借金が贈与と疑われる4つのパターン
税務署から借金が贈与だと疑われるパターンで一番多いのは、親からの借金です。
では、親からの借金をしたときに、どのようなパターンにあてはまると贈与の疑いをかけられるのでしょうか?
親からの借金が贈与と疑われるパターンは以下の4つです。
- 契約書が存在しないパターン
- 利息なしで借金をしたパターン
- 返済期限を設定していないパターン
- 返済金額が大きすぎるパターン
契約書が存在しないパターン
まず借金をしたときに、借金をした証明になる契約書が存在しない場合は、税務署から贈与と疑われやすいです。
そもそも、金融機関から借り入れをした場合、借金をした証明として金銭消費賃貸契約書のやりとりを行うことが普通です。
しかし、借金をしたにも関わらず、金銭消費賃借契約書や借用書が存在しないのでは、本当に借金をしたのかがわかりません。
そのため、契約書が存在しない場合、税務署は、贈与税から逃れるために借金をしたことにしているのでは?と疑うのです。
借金をするときは、契約書を作成しておきましょう。
利息なしで借金をしたパターン
利息なしで借金をしている場合も、税務署から本当に借金をしているのか疑われやすいです。
なぜなら、金融機関で借金をする場合、必ず借金をした金額に加えて、利息の支払いを求められることが当たり前だからです。
ところが、利息なしでお金を借りているとなると、本来かかるはずだった利息分を脱税しようとしたと疑われます。
実際に相続税法第9条によると対価を支払わずに利益を受けた場合には、贈与により取得したものとみなすと記載されています。
第九条
第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
(引用元:相続税法第9条|e-Gov)
また、国税庁のホームページでも借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があるとの記載があります。
しかし、その借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があります。
(引用元:タックスアンサー(よくある税の質問)No.4420 親から金銭を借りた場合|国税庁)
そのため、利息なしで借金をすることは、贈与税に当たるとして税務署から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。
返済期限を設定していないパターン
お金を借りた場合、必ず返済期限が設定されています。なぜなら、借金は必ず返すことを前提に行われるから。
税務署は、借金をしたのに返済期限が設定されていなければ、はじめから借金を返すつもりはなく、贈与税を払いたくないのではないかと疑うのです。
返済金額が大きすぎるパターン
借金の返済金額が年収よりも大きい場合は、贈与と疑われる可能性があります。というのも、借金は返済をすることが前提であるからです。
たとえば、借金をしている方の年収を超えるような返済金額が設定されていれば、借金の額としては不自然です。
そのため、返済金額が大きすぎれば、借金ではなく贈与ではないかと疑われます。
なお、親からの借金が、贈与として認められた判例として、津地方裁判所にて平成15年12月4日に判決された贈与税決定処分取消請求事件があります。
[1]本件の資金移動の際に金銭消費貸借契約書は作成されておらず,返済期限も定められていなかったこと,[2]母,妻及び子はXに対して返済を催告したり,訴訟を提起するなど返還を求める具体的な行動を起こしておらず,Xは母らに金銭を返還していないこと,[3]P税理士の作成したBの相続 税申告書には,Xに対して3430万円の生前贈与がされたとの記載があること,④子 から金銭を受け取るに当たって,競売物件の仲介業を営み多額の金銭を貸し付けても不 自然ではなく疑われにくい知人2名からの借入れがあったように偽装していること,⑤ 母らからXへの資金提供であるにもかかわらず,A商店とX,A商店と母らという真実 に反する不自然な公正証書を作成し,税務当局に対し取引の実態を殊更に糊塗しようと していることなどの諸事情に鑑みれば,本件取引は贈与であると認めるべきである。
(引用元:速報重要判例解説|TKC法律情報データベース)
この判例では、契約書がない場合や返済期限を設定しない場合は、贈与と認められると明記しています。
このように、親から借金をしたときに4つのパターンに当てはまった場合、税務署に贈与と疑われる可能性があるので、注意しなければなりません。
借金が贈与税の対象にならないためにするべき5つのこと
親からお金を借りるときは、借り方を間違えると、税務署から贈与を疑われます。
では、親からの借金が贈与税の対象にならないようにするためには、どうすればよいのでしょうか?
税務署から贈与を疑われないためには、以下の5つのことをやるべきです。
- 借用書を作成する
- 無利子で貸してもらわない
- 金融機関の口座で返済を行う
- 返済は定期的に行う
- 返済できる金額のみ借りる
1.借用書を作成する
親からの借金が贈与ではなく借金であることを手っ取り早く証明するためには借用書を作成することをおすすめします。
借用書を作成しておけば、親から借金をしていることの証明になるため、税務署から贈与の疑いで指摘されることは少なくなります。
親子の関係なのに、お金の貸し借りで借用書まで作るのは気が進まないかもしれません。
しかし、借金をしている正当性を主張できなければ、税務署から贈与税を請求されることもあります。必ず借用書は作っておきましょう。
2.無利子で貸してもらわない
国税庁のホームページでは、たとえ親や配偶者など親族間の貸し借りであっても、無利子で借金をした場合は、その利益相当額が贈与として取り扱われる場合があると回答しています。
親と子、祖父母と孫など特殊の関係がある人相互間における金銭の貸借は、その貸借が、借入金の返済能力や返済状況などからみて真に金銭の貸借であると認められる場合には、借入金そのものは贈与にはなりません。
しかし、その借入金が無利子などの場合には利子に相当する金額の利益を受けたものとして、その利益相当額は、贈与として取り扱われる場合があります。
(引用元:タックスアンサー(よくある税の質問)No.4420 親から金銭を借りた場合|国税庁)
つまり、親から借金をする際に、無利子で借りるのはおすすめできません。親から借金をする場合でも、利子をつけて返済した方が良いです。
3.金融機関の口座で返済を行う
借金の返済をきちんと行っている場合でも、定期的に返済を行っていることが認められなければ、親から借金をしている証明ができません。
親からの借金が贈与ではなく借金であると認められるためには証拠が残っていることが重要です。
したがって、借金を返済する場合は、親の銀行口座に支払うことをおすすめします。
銀行口座に返済すれば、振り込みの記録が残るので、通帳の写しや発行される振込明細書などで借金をきちんと返済していることの証明になります。
一方で、親に手渡しで借金の返済をしていると、借金の返済をしていることが証明できません。
そのため、必ず借金を返済するときは、親の銀行口座に振り込むようにしましょう。
4.返済は定期的に行う
親から借りたお金の返済は定期的に行わなければなりません。
親から借金をした際に
- 「あるときに返してくれればいい」
- 「出世払いでいいよ」
と借りるケースもあるでしょう。
しかし、国税庁のホームページにも記載されている通り「あるとき払いの催促なし」「出世払い」のような賃借をすると、借りたお金が贈与として扱われます。
なお、実質的に贈与であるにもかかわらず形式上貸借としている場合や「ある時払いの催促なし」又は「出世払い」というような貸借の場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われます。
(引用元:タックスアンサー(よくある税の質問)No.4420 親から金銭を借りた場合|国税庁)
したがって、決められた期日に返済を定期的に行うことが重要なのです。
もちろん、金融機関での借金のように、ほぼ毎月決められた日に必ず返済を行う必要はありません。
ただ、親から借りたお金が税務署に借金として認められるためには、定期的に返済をする必要はあります。
5.返済できる金額のみ借りる
親から借りたお金を借金として認めてもらうためには、きちんと返済できる金額のみ借りることも重要です。
なぜなら、あまりにも借金の額が大きい場合、はじめから返済するつもりはなく、親から贈与されただけなのではと疑われるから。
実際に消費者金融等でお金を借りる場合、総量規制という法律の影響で年収の3分の1までしかお金を借りられません。
到底返済できないようなお金を借金すると、税務署に疑われる原因になるので、親から借りるお金が大きくなりすぎないように注意しましょう。
借用書の作り方を解説!
借金をしていることを証明するためには、借用書か金銭消費賃借契約書の2種類のいずれかを作っておく必要があります。
ただ、親から借金をした場合のような個人間での借金では、借用書でやりとりをするケースが多いです。
借用書の作成時に入れるべき内容や借用書を作るときの注意点を解説します。
まず、借用書を作るときは、以下の12つの項目を必ず記入して下さい。
- 契約した年・月・日付
- 貸主の氏名・住所・押印
- 借主の氏名・住所・押印
- 借金額
- お金を借りた日
- お金を借りたことを認める旨の文章を入れる
- 返済方法
- 毎月の返済日および返済金額
- 金利
- 遅延損害金
- 貸主の口座に間違いなく入金をする旨の文章を入れる
- 支払いが1回でも遅れた場合や民事再生手続きおよび破産の申し立てがあった場合は、まとめて借金を返す旨の文章を入れる
返済方法は、一括払いか分割払いを選択します。分割で支払う場合は、以下の項目についても決めておきます。
- どのぐらいの期間で返済を行うのか?
- どのぐらいの頻度で返済を行うのか?
- 毎月どのぐらいの金額を返済するのか?
どの項目も、お金を借りた証明には欠かせない内容なので、きちんと親と話し合った上で決めましょう。
金利や遅延損害金の取り決めや毎月の返済日などもきちんと決めます。
また、借用書は、ネット上でも多くテンプレートが提供されているので、そちらも参考にしてみてはどうでしょうか?
借用書を作るときの注意点
借用書を作るときにはきちんとした借用書を作らなければ、贈与と疑われる原因になりかねません。必ずきちんとした借用書を作りましょう。
借用書を作るときの注意点 | 理由 |
---|---|
借金額は返済できる金額にする | 返済できない金額を設定すると、返す気がないと思われないように |
印鑑は実印を押す | 借用書を作成した方が借主であることを証明するため |
署名は直筆で、捺印もきちんと行う | 借用書の偽造を防ぐため |
借金をした金額は漢数字を使用する | 借用書の改ざん防止のため |
借金額の前に金、後に也と記載する | それぞれ金額の前後に追記できないようにするため |
金利や遅延損害金の取り決めも記載する | 借金として認められない可能性があるため |
返済日や返済頻度を記載する | はじめから借金を返す気がないと思われないようにする |
1万円以上借りた場合は、収入印紙を貼る | 印紙税法違反として罰則の対象になるため |
署名については、直筆で書く必要がありますが、署名以外の欄については、パソコンでの入力でも、問題ありません。
また、借金の金額は、漢数字を使います。たとえば、1000万円と記入する場合は、金壱仟萬圓也と記載します。
借金の金額に漢数字を使うのは、不正防止のためです。もし数字や通常の漢数字を記載した場合、かんたんに数字や漢数字を加えられるので、借金額を改ざんされる可能性があります。
さらに、金額の前後に金と也を入れているのは、後から数字を付け加えられないようにするためです。
借金額を入力する際の漢数字表
1 | 壱 |
2 | 弐 |
3 | 参 |
4 | 肆 |
5 | 伍 |
6 | 陸 |
7 | 漆 |
8 | 捌 |
9 | 玖 |
10 | 拾 |
100 | 佰 |
1000 | 仟 |
10000 | 萬 |
このように借用書を作成する場合は、借金をするための証明ということが認められるような書類を作成しなければなりません。
注意点に沿って、正確に作成する必要があります。
贈与税の非課税枠もうまく活用する
贈与税には非課税枠があります。
そのため、親から借金をしたお金が借金として認められない場合でも、借金の金額が非課税枠の範囲内であれば、贈与税はかかりません。
住宅を取得するための借金なら非課税枠は1000万円以上になるケースも
住宅を取得するための資金の贈与を受けたときの非課税額
住宅を取得する際の契約締結日 | 省エネ住宅 | その他の住宅 |
令和2年4月1日〜令和2年3月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
令和3年4月1日〜令和3年12月31日 | 1200万円 | 700万円 |
住宅を取得するための借金をした場合は、非課税枠が1000万円以上になるケースもあります。
たとえば、省エネ住宅を購入する場合に親など親族からの贈与が1200万円までなら非課税です。
また一般的な戸建てやマンションを購入する場合でも700万円までは非課税になります。
借金の目的が車や開業資金なら年間110万円まで税金がかからない
贈与税がかかるのは、贈与とみなされた金額が年間で110万円を超えた場合です。
国税庁のホームページでも
「暦年課税を適用する場合には、その財産の価額の合計額が基礎控除額(110万円)を超えるとき」
と記載があります。
(引用元:Q30 贈与税の申告をする必要がある人は、どのような人ですか。|国税庁)
したがって、車の購入費用の一部や開業資金の一部として親からお金を借りた場合でも借金額が110万円以下の場合は、贈与税は課税されません。
おわりに
税務署に親から借りたお金を贈与と疑われないためには、借用書をきちんと作成することが大事です。
また、
- 返済期日や返済期間
- 金利の設定
なども親と話し合って決めておく必要があります。
なお、金融機関から借りたお金の返済が難しい場合は、親からお金を借りても完済することができないかもしれません。
もし、借金の返済が難しいのであれば、弁護士に相談して、過払い金請求や債務整理をした方が、借金の返済がスムーズになる可能性が高いです。