借金

気を抜かないで!退職金で借金を返済する場合の手続きや注意点について

自分や配偶者が借金しており、退職が間近に迫っている場合、退職金で借金を一括返済することは合理的な判断と言えるのでしょうか。

また、個人再生や自己破産などの債務整理では退職金証明書が必要になりますが、取得に当たっての注意点なども知っておきたいところです。

そこで今回は、借金返済と退職金についてのポイントを解説します。

退職金で借金を返済する際の注意点

退職金でまとめて借金を返済しようとしている人は、

  • 退職金は期待できるのか
  • 退職金の種類
  • 退職金を他の返済に充てる予定はないか
  • 老後の資金は残っているか

などを考慮しておかなければなりません。また、退職金は自分でもある程度見積もることができます。退職金の計算方法についても知っておいた方が良いでしょう。

退職金とは

退職金は会社を辞める際にもらえるお金のことですが、法律により決められているものではありません。そのため、退職金自体を用意していない会社もあります。

退職金制度は賃金の後払いや退職後の生活保障、功労などの目的で実施されますが、細かな決まりは会社の退職金規定に定められています。

労働者にとっての退職金制度の最大のメリットは、老後の資金を会社に負担してもらえることです。老後の資金は自ら準備することもできますが、長期的な計画を立てて資金を準備するに長い間資金運用や資金管理を行う必要もあり、様々なコストがかかります。しかし、会社が退職金制度を整備していれば、運用コストなどが大きく軽減されます。

また、税金面での優遇をもメリットとしてあげられます。退職一時金は、退職所得控除や2分の1課税、分離課税といった優遇措置を受けることができます。また、企業年金は、公的年金等控除を受けることができます。個人で老後の資金を用意するよりも有利な条件で将来の資金を用意することができるのです。

一方、退職金は在職中にもらうことはできず、長期間勤めなければ高額の退職金は見込めません。退職金で借金を返済したいと考えている人もいますが、退職金は老後の資金に必要な場合が多く、安易に使ってしまうと退職後の生活が不安定になってしまうこともあります。

退職金の種類

退職金には様々な種類があり、それぞれ支給の時期や方法が異なります。

主な退職金としては

  • 退職一時金
  • 退職金共済制度
  • 厚生年金基金
  • 確定給付企業年金
  • 確定拠出筋
  • 退職前払制度

などがあげられます。

退職一時金

「退職一時金」とは、一般的な「退職金」のことで、退職時に労働者が一括してもらえるお金のことです。退職一時金の原資は会社の内部留保が主であり、内部留保が退職一時金の額を下回る積立不足が起きたとしても、会社は支払い義務を免れることはできません。

退職金共済制度

「退職金共済制度」は、退職時に共済の運営者から退職金をもらう制度です。独立行政法人勤労者退職金共済機構による中小企業退職金共済や、業種別の退職金共済、商工会議所が運営する特定退職金共済などが主な退職金共済です。勤務する会社が倒産したとしても、従業員は退職金共済から退職金を受け取ることができます。

厚生年金基金

「厚生年金基金」は、国が運営する厚生年金の一部を基金が代わりに運営しており、厚生年金保険法に基づいた支払いや徴収がなされています。掛金の徴収、運用、老後の年金の支払いも基金が代行していますが、制度自体は縮小しています。

確定給付企業年金

「確定給付企業年金」は、退職時に規約で定められた金額が外部機関から直接支給される制度です。将来の給付額はあらかじめ決められており、 その給付額を賄うために必要な掛金を算出し、拠出する制度です。将来の給付額は企業が保証しているため、あらかじめ決められています。

確定拠出年金

「確定拠出年金」は、拠出額をあらかじめ決めておき、将来の給付額は運用実績と拠出額によって決められる制度です。加入者は運営管理機関が示した金融商品の中から自己責任で選択し、運用リスクは加入者が負うことになります。

退職金前払制度

「退職金前払制度」ですが、これは退職金に相当する金額を賞与や給与に上乗せして支給する制度です。退職後に支給されるのではなく、今現在の生活を安定させるために用いられますが、反対に老後の資金は自分で準備する必要があります。

退職金が期待できないことも多い

退職金を支給する会社であっても、どの程度の退職金が支払われるかは意外と知らない人が多いものです。返済に充てるつもりであっても、いざ支給されてから思ったほどの額ではなかった場合、再就職など他に収入を得る方法を考えなければなりません。

中央労働委員会事務局総務課広報調査室が毎年実施している「賃金事情等総合調査」によると、企業の直近の退職金平均額は851万円となっており、産業別に見ると大きな偏りが見られました。

産業別退職金額では業界により大きな差が見られた

例えば、百貨店やスーパーの退職金額は1732万円と高額になっている一方、ホテル・旅行業界や建設、銀行・保険、海運・倉庫などの産業は低い金額になっています。

しかし、退職金は定年退職だけでなく、会社都合や自己都合による退職でも支給されます。そこで、定年退職によるものだけで見てみましょう。

定年退職による退職金は平均1213万円だった

定年退職による退職金は平均で1213万円、鉱業、ホテル・旅行、百貨店・スーパーの退職金は2000万円を超える結果となりました。一方、建設業界では1000万円を下回ってます。

退職金は定年退職か自己都合・会社都合による退職金かによって大きく金額が異なります。定年退職による退職金は高額であっても、自己都合・会社都合による退職金は少額しかもらえない業界や会社もあるため、自分の状況に合わせて退職金額を見積もっておきましょう。

退職金を他の返済のあてにしてないか

退職金を借金の返済に充てる場合、既に他の借金の返済などのあてにしていないか再度確認しておきましょう。

特に、住宅ローンや車のローン、教育ローンなどは高齢になるまで支払いが残っているケースも多いため、退職金のうち借金の返済に充てられる分はどのくらいか確認しておくことが重要です。

また、退職金は資産形成にもよく用いられます。老後のための資産としてある程度残しておきたい金額や将来得られる予定の試算も見積もっておきましょう。

老後の資金は残っているか

「老後資金2000万円問題」という話題を覚えている人は多いのではないでしょうか。金融庁公表の報告書に「公的年金以外の老後資金は2000万円不足している」と書かれていたことが話題となり、世間に衝撃を与えました。

公益財団法人生命保険文化センターが実施している「生活保障に関する調査」によると、老後生活に関する不安として多い内容は、「公的年金だけでは不十分」、「退職期金や企業年金だけでは不十分」と答える人の割合が多く、多くの人が老後の資金に関する悩みを抱えていることがわかります。

年金や退職金が不足していると感じる人は多い

(データ引用元:令和元年度生活保障に関する調査|公益財団法人生命保険文化センター

借金がない場合、退職金は老後のための資産として活用できますが、借金が大きければそれだけ老後に使えるお金が減少してしまいます。退職金は目先の借金を返すだけでなく、老後に必要な様々な支出と折り合いをつけることが必要なのです。

退職金の計算方法

退職金の詳しい計算方法は、通常、社内の「退職金規程」で明記されています。

退職金規程の中には、退職金の計算方法や支給条件、退職理由ごとの支給額などが明記されています。一般的に、退職理由が自己都合の場合は、定年退職よりも退職金の支給額が少なくなります。

退職金の計算は会社により異なりますが、計算方式は主に以下のように分類されます。

  • 「退職時の基本給×勤続年数ごとの係数×退職事由別の支給率」とする計算方法
  • 勤続年数による定額支給
  • ポイント制方式
  • 別テーブル方式

例えば、1つ目の方式の場合、退職時の基本給が30万円、勤続年数ごとの係数が6.0、自己都合による退職で支給率が0.8だった場合、30万円×6.0×0.8=144万円となります。

2つ目の勤続年数による定額支給はわかりやすく、退職金規定に年数に応じた支給額が明記されています。

3つ目のポイント制方式とは、役職、給与などに対してポイントを設定し、ポイントの合計に1ポイント当たりの退職金額を乗じて退職金を算出する方法です。

4つ目の別テーブル方式とは、賃金と連動しない退職金計算表が用意されており、それにより退職金を算出する方法です。

これらの方法により退職金を算出し、借金の返済などにどれくらい充てることができるか見積もっておきましょう。

個人再生・自己破産では退職金が財産として扱われる

債務整理という方法で借金の減額を行う場合は、退職金は財産として扱われる点に注意が必要です。

ここでは、

  • 債務整理とは
  • 個人再生や自己破産する場合の退職金の取扱い
  • 退職金見込額証明書

について説明していきます。

債務整理とは

債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産があり、借金を減額する法的手続きのことを言います。

任意整理における減額は、借金の将来利息をカットすることが主であり、返済する期間を延長するなどし、無理なく返済できるように借入先と専門家が協議を行います。任意整理はあくまでも債権者と債務者間の任意の交渉のため、裁判所を介すことなく手続きをすることができます。

個人再生は、借金を大幅に減額できる手続きのことで、借金が大きいほど減額率が大きくなります。

借金額 最低弁済額
100万円以上500万円以下 100万円
500万円超1500万円以下 借金の5分の1
1500万円超3000万円以下 300万円
3000万円以上5000万円未満 借金の10分の1

個人再生には、借金の額ごとに「最低弁済額」という最低限返済しなければならない額が決められています。最低弁済額は借金が大きいほど減額されるようになっており、3000万円以上の借金は手続きをすれば10分の1にまで減らせる可能性があります。

個人再生では裁判所に再生計画を提出し、減額された借金を返済していくことになります。借金は減額されても返済自体はしなければならないため、継続的な収入などの条件も求められます。

自己破産は、所有する高額な財産などを処分するかわりに、借金をゼロにする方法のことです。自己破産は価値のある財産を処分しなければならないデメリットがありますが、多額の借金を抱えている人にとっては生活の立て直しを目的として利用できる制度です。

個人再生や自己破産は財産の処分を伴うことがありますが、退職金も財産の一部と見なされるため、退職のタイミングなどが重要になってきます。

債務整理をする場合の退職金の取扱い

任意整理の手続きをしても、退職金の一部を借金の返済に充てる義務はありません。一方、個人再生や自己破産では退職金の一部を財産として計上しなければなりません。退職金が財産として計上される割合は、退職の見込みがあるかどうかによって変わってきます。近い将来退職する予定がある場合は、退職金総額の4分の1を財産として計上されることになります。近い将来退職する予定がない場合は、退職金総額の8分の1が計上されます。

例えば、自己破産をするとして、勤続年数はまだ10年で退職までは長く、現在の退職金見込額が200万円の場合は、見込額の8分の1が財産として計上され、25万円が評価すべき財産とされます。一方、そろそろ退職する見込みがある場合、200万円の4分の1である50万円が財産として計上されるのです。

また、東京地裁の場合は、退職金支給見込額の1/8または1/4が20万円以下になると、退職金全体を自由財産とする措置を講じています。つまり、退職金支給がまだ先の場合は160万円未満、もうすぐ退職金が支給される場合は80万円未満である場合は、退職金債権の全てが自由財産となり、退職金を手放す必要はなくなります。

いずれにせよ、個人再生や自己破産は遅くなるほど財産として計上される退職金額が上がるため、借金の返済ができないとわかれば早めに対処する方が得です。

退職金見込額証明書とは

退職金見込額証明書とは、自分の勤務先から将来もらえるであろう退職金の見込額を証明してくれる書類のことです。個人再生や自己破産の手続きを行う際は、退職金見込額証明書、あるいはそれに準じた書類の提出が求められます。

個人再生や自己破産といった借金の整理をする手続きでは、個人の資産は差し押さえられます。退職金も資産と見なされるため、将来の退職金見込額を算出し、一部を差し押さえられることになるのです。

退職金見込額証明書を発行する際の注意点

退職金見込額証明書を発行する際には、会社にバレるリスクなども考慮しておく必要があります。ここでは特に、発行の理由を尋ねられたときの対処法、発行が難しい場合について説明していきます。

証明書発行の理由を聞かれる可能性がある

勤務先の会社から退職金見込額証明書を発行してもらう場合、「住宅ローンに関する与信調査の為に必要」という理由で申請を行うと、不審に思われるリスクは減ります。

自己破産や個人再生が会社にバレても直接解雇される理由にはなりませんが、社内でのイメージダウンを心配しているなら、適当な理由を考えておくべきでしょう。

また、証明書の発行は総務課や経理課が担当していることが多く、発行前に知り合いや担当者に根回しをしておくのも手です。

証明書の発行が難しい場合

退職金見込額証明書は、会社に依頼すれば原則誰でも取得することができるはずです。しかし、借金返済に苦しんでいることや債務整理をすることが職場や社長にバレるリスクはゼロではありません。職場にバレると立場が複雑になることもあり、何とか退職金見込額証明書の取得を避けたい人も多いはずです。

実は、裁判所では「退職金規程と計算書」を退職金評価の資料として認めています。勤務先に就業規定や退職金規程があれば、規程に示されている自分の勤続年数や役職などの条件ををあてはめて計算することができます。計算書と退職金規程を添付して裁判所に提出すれば、退職金見込額証明書の代わりとして認めてもらえるのです。

この方法は誰でも使えて職場にバレるリスクがないため、全国の裁判所で広く利用されています。

借金を返済する際に注意すべき退職金の取扱い

退職金で借金を返済する場合、

  • 受け取る時期
  • 高額の退職金がある場合
  • 他の方法はないか

などに注意して進める必要があります。

個人再生では退職金を受け取る時期に注意が必要

個人再生では、退職金を受け取る前であれば8分の1、もうすぐ退職する予定がある場合は4分の1が財産として計上されますが、退職金を実際に受け取ってしまうと全てが財産として計上されてしまいます。つまり、個人再生の準備自体は退職前に進めていたとしても、退職金を受け取った後に手続きをしてしまうと、退職金が全額財産として計上されてしまい、支払うことになる債務額が大幅に増えてしまうのです。

仮に個人再生を進めようとしている時点で退職が決まっていたとしても、裁判所による認可を受けるまで退職金は受け取らないほうが良いでしょう。

任意整理でコツコツ返済できる場合もある

個人再生は借金を一気に減らすことができますが、退職金も財産として計上されるため、退職時に残る退職金は減ってしまします。また、個人再生などをせず退職金を借金返済に充てる場合でも、多額の借金が残っている場合は手元に残るお金がなくなってしまいます。

退職金は老後の大切な資金となります。一括返済せずに任意整理を利用すれば、退職金を手元に残したまま、利息をカットし、返済できる範囲で分割払いすることも可能です。また、任意整理の手続きには過払い金の調査や請求も含まれています。2010年以前に借りた借金があるなど、古い借金がある場合には過払い金を請求できる可能性があります。

どの債務整理が良いのかなどは弁護士などの専門家に相談して決めると良いでしょう。

借金返済中の退職は借入先に申告を

借金の返済中に退職をする場合は、雇用環境や経済状況が変化するため、借入先に申告することが必要です。また、在籍確認や再審査の可能性もあります。

申告をしないと後々トラブルになることも考えられるため、忘れずに申告しましょう。

退職や転職は借入先への申告が必要

消費者金融やクレジットカード会社の規約には、届け出時点での氏名や住所、勤務先などに変更があった場合は、遅延なく申告する旨が含まれていることがほとんどです。そのため、借金中の退職は、借入先の消費者金融やカードローン会社に申告を行わなければなりません。

申告方法は借入先の会社によって異なり、インターネットや電話、書類の郵送などで変更手続きを行うことができます。

また、借入先の会社によっては再就職先の勤務先名や所在地、電話番号だけでなく、雇用形態や職種、収入といった細かな情報を求められることもあります。新たな勤務先がある場合、保険証や収入証明書類の提出を求められることもあるため、借入先の会社に確認しておきましょう。

在籍確認が再度必要な場合もある

退職後に再就職した場合は、新たに在籍確認が求められることもあります。在籍確認は借金の契約時と同様で、借入先から勤務先に電話をかけ、債務者が所属しているかを確認しするものです。

その際、消費者金融やカードローン会社であれば、本人以外に会社名を名乗ることはありません。そのため、消費者金融やカードローンを利用していることを同僚や上司に知られる心配をせずにすみます。

在籍確認が行われるかどうかは会社によって異なるため、借入先の会社に問い合わせることをおすすめします。

借金問題は事前に弁護士に相談しよう

借金問題は、弁護士に相談することをおすすめします。

借金問題において退職金をどう扱うかは専門知識を必要とすることが多いため、自分だけで判断すると後悔してしまうかもしれません。

債務整理手続きのスペシャリスト

借金の返済に退職金を使うかどうか、手続きをするべき債務整理の種類やタイミングなどは、自分だけで判断すると損をしてしまうことがありあます。特に、債務整理をする際に退職金を貰っていると財産として計上されてしまうため、もらう時期を誤ると大きな損をしてしまいます。

また、任意整理や過払い金の請求を上手く利用すれば、退職金を使わなくても借金を返済できる可能性があります。できるだけ退職金による一括返済などを避けたい場合は、まず弁護士に相談することをおすすめします。

相談は無料でできる

弁護士事務所の中には相談を無料で受け付けているところもあります。現在の収入や退職金、退職のタイミング、退職後の再就職の予定など、依頼者によって状況は異なります。まずは相談時に自分の置かれている状況や悩み事を詳細に話しましょう。

また、債務整理や過払い金請求などには書類の作成や裁判所とのやり取りなどが必要になってきます。面倒な書類の作成も専門家が代行してくれるので、手続きに時間を取られる心配はありません。

おわりに

退職金で借金を返済することは可能ですが、他のローンの支払いやその後の生活費などに影響がでないか十分に注意する必要があります。

老後は公的年金だけでは不十分だと感じている家庭も多く、退職金が高額でなかったり、多額の返済があったりする場合は、退職後の生活が不安定になる恐れがあります。退職金はある程度会社の退職金規程などに基づいて計算することができます。

個人再生や自己破産をするには退職金見込額証明書あるいはそれに準じた書類を提出することが求められます。個人再生や自己破産では退職金は財産として計上されるため、一度退職金を貰うと損をしてしまうことがあるため注意が必要です。