「高額な慰謝料を請求されたけど支払いは絶対?」「慰謝料を減額したり無くしたりすることはできる?」このような疑問を抱いている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚問題や交通事故が原因でいきなり高額な慰謝料を請求されても、すぐに支払うのはかなり難しいです。
とは言っても、支払いを放置すれば裁判を起こされてさらに不利な状況になる可能性もあります。
そこでこの記事では、慰謝料の支払いに関する知識や、請求されたときの対処方法、自己破産について解説します。
慰謝料を請求された!借金してでも返すべき?
慰謝料を請求された際、すぐに支払えないことから消費者金融などで借金をして返そうとする方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
結論、慰謝料を請求された場合は、借金をしてすぐに支払おうとせず、順を追って冷静に対処すること重要です。慰謝料の請求を受けてすぐに応じてはいけない理由は以下の2つがあります。
- 慰謝料の内容によっては支払い義務が発生しない
- 相場よりも高額な金額で設定される可能性がある
慰謝料の内容によっては支払い義務が発生しない
慰謝料は、内容によって支払いの義務が発生しないものがあります。
たとえば、配偶者がいて不倫をした場合は慰謝料が発生します。ただし、ここで発生するのは、配偶者への慰謝料のみで、不倫相手には発生しません。また、不倫以前から別の理由で家庭環境が悪化していた場合は、配偶者への慰謝料も発生しません。
また、以下の民法によると、不倫の事実を知ってから3年間請求がない場合は、時効により慰謝料の請求はできなくなります。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
引用元:民法 第724条|e-Gov
相場よりも高額な金額で設定される可能性がある
相場よりも高額な金額で請求される可能性がある場合は、すぐに慰謝料の請求に応じてはいけません。
慰謝料を請求する側は、ネットなどから慰謝料の相場を調べることが多い傾向があります。請求する側は少しでも多くの金額を設定したいと考えているケースが多く見られますので、高額請求が成功した事例をネットで見かけると、自らも同じような金額で請求しようとします。
しかし、ネット記事の中には請求者側に向けて、高額な慰謝料を請求するための情報が書かれていますので、すべてが相場通りとは限りません。
慰謝料を請求された時の主な解決方法
慰謝料を請求される際は、はじめに相手側から内容証明郵便や手紙などの文書か口頭で伝えられます。この時点では、裁判などに発展していませんので、連絡を無視せずに正しく対応していくことが重要です。
ここでは、実際に慰謝料を請求された時に具体的にどのように対処していけば良いかを解説します。
当事者同士で話し合う
1つ目は、当事者同士で話し合うことです。相手側が弁護士などを立てていない場合は、本人と直接交渉して解決できる可能性があるからです。
請求に至った問題を話し合いで解決できればそれに越したことはありません。また、相手側が問題に対して勘違いをしているケースも考えられます。
この場合は、事実とは異なる内容で慰謝料の金額を定めている場合がありますので、問題について双方で誤解などがあれば解いておく必要があります。
内容証明郵便などで請求された後に支払わない場合は訴訟に発展する可能性があります。裁判となると、お金や手間がかかる上に、弁護士に依頼する必要も出て来ますので、相手側はできるだけ最初の段階で支払って欲しいと考える傾向にあります。
そのため、冷静な話し合いに持ち込むことで相手も対応してくれることがあります。
減額・分割払いを交渉する
2つ目は、減額・分割払いの交渉することです。慰謝料の請求において、大きな金額を提示し一括で支払うように迫られることや、相場よりも大きな金額を請求されることがあります。
交渉する際は、
- 経済的な理由で一括で支払えないこと
- 相場よりも少ない金額が妥当である理由
を根拠を持って伝えることが重要です。
まずは、経済的に一括での支払いや高額な支払いができないことを伝えます。
不倫問題や交通事故であれば、詳細の不倫内容や事故状況を再確認するなどをして、相場よりも低い慰謝料が妥当であることを伝えましょう。
ただし、「相場はこの金額だからこれ以上は払わない」などのように横柄な態度を取ってしまうと、相手は納得しづらくなりますので、誠意をもって相手と話し合うことが大切です。
弁護士に依頼して示談
3つ目は、弁護士に依頼して代わりに相手と交渉することです。弁護士に依頼すると、相手との交渉を含めたやり取りを代わりに行います。そのため、請求金額が適切かどうかわからない場合に有効な手段です。
実績のある弁護士は、ある程度の慰謝料の相場は把握しています。また、弁護士に依頼することで、相手と直接交渉するよりも冷静に対応することができます。
特に、相手が慰謝料を相場よりも高額に請求している場合や、直接の交渉に応じてもらえない場合には効果的な方法です。また、請求額が高いかどうかわからない・交渉できる自信がないケースなどにも弁護士が代わりに示談交渉を行います。
民事訴訟による解決
4つ目は、民事訴訟によって解決を図る方法です。相手が話し合いや交渉に応じず、弁護士に代理人として交渉を依頼しても示談が難しい場合は、相手側から民事訴訟を起こす必要があります。
民事訴訟では、裁判官が両者の主張を聴いて、証拠や法律をもとにして判決を出します。仮に、ご自身の主張が正しいと判決されれば、その主張を重視した判決が出されます。どのような判決が出されても、裁判後は両者とも判決に従わなければいけません。
民事訴訟は、示談が難しい場合に有効な解決方法ではありますが、判決までに時間がかかること・手数料などの費用がかかるといったデメリットがあります。また、弁護士に依頼して手続きをする場合はさらに費用がかかります。さらに、判決内容によってはどちらか一方が大きく不利になってしまうことも考えられますので、できる限り当事者間で話し合いをもとに歩み寄っていくことが1番の解決方法です。
慰謝料を債務整理することはできる?
当事者との話し合いや弁護士に依頼しても解決が見込めない場合には、別の方法で解決を図らなければいけません。
ここでは、慰謝料と債務整理について詳しく見ていきます。
慰謝料は自己破産で免責できる可能性がある
慰謝料は、自己破産で免責できる可能性があります。
自己破産とは、支払いが困難であることを認めてもらい、持っている財産を債権者に分配することで、すべての債務を無くす手続きです。仮に債務に値する財産がない場合でも、免責(支払いの責任が無くなること)手続きも同時に行うことで、すべての支払いが免除されます。
しかし、内容によっては非免責債権(支払いの義務が無くならない債権)に当たりますので、慰謝料を必ず免責できるとは限りません。
自己破産できる可能性がある慰謝料
自己破産で慰謝料が免責できるかどうかは、破産法第253条によって定められています。そのうちの一部は以下になります。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
引用元:破産法 第253条|e-Gov
要するに、
- 税金の滞納による請求
- 悪意を持って加えた不法行為
- 故意または重大な過失によって相手に危害を加えた行為
に関しては、非免責債権となり自己破産ができません。
以上を踏まえて、自己破産ができる可能性がある主な慰謝料の例は以下になります。
- 夫婦間トラブル
- 交通事故
- 刑事事件
それぞれ見ていきましょう。
夫婦間トラブル
夫婦間トラブルには、不貞行為やDV(ドメスティックバイオレンス)などが挙げられます。はじめに、不貞行為はいわゆる浮気や不倫などの行為が該当します。これらの行為は悪意を持って加えた不法行為と判断されにくいため、慰謝料を請求されても自己破産で無くせる可能性が高いです。
たとえば、夫婦間で夫が不倫した場合、一度の不倫では悪意を持った行為と判断するのは難しい場合もあります。しかし、複数回・複数人との不倫や相手を傷つける目的で行なった場合は悪意を持っているものとして非免責債権となる可能性があります。
不貞行為は、あらゆる証拠を基準として判断されます。そのため、両者の証言・メール・LINEなどの証拠から、悪意を持った行為またはその度合いについての結論を出すケースが多いようです。
また、DVに関しては免責が認められない場合が多く見られます。DVに至った理由が何であれ、相手に精神的・身体的苦痛を与えたことが悪意ある行為と判断されるからです。
交通事故
交通事故は、過失の度合いによって免責の可否が決まります。加害者側に悪意はなく、不注意で起こしてしまった事故などは、過失が小さいものとして自己破産をして免責することも可能です。しかし、過失の度合いによっては免責の可否が異なってきます。
たとえば、わざと起こした事故ではなかったとしても、相手の心身に大きな悪影響を及ぼした場合は非免責になることがあります。反対に、悪意を持って起こしたと判断されるような事故では、相手の心身への影響が重大なものではなかったとしても非免責になることもあります。
ただし、交通事故は事故状況が複雑なこともありますので、一般の方が判断するのは難しいでしょう。すぐにでも免責の可否を知りたい方は、弁護士に相談することをおすすめします。
刑事事件
何らかの方法で相手を傷つけてしまう刑事事件は、交通事故よりも判断が困難です。しかし、多くのケースは悪意を持った行為として、自己破産でも免責できません。
近年の身近な刑事事件としては、盗聴や盗撮・誹謗中傷やSNSトラブルなどが挙げられます。これらの行為は、警察に通報するだけでは事件として扱ってもらえないことがあります。事件として慰謝料を請求するには、十分な証拠を集めて告訴状や被害届を提出しなければいけません。しかし、刑事事件まで発展すれば、慰謝料を免責にすることは相当難しくなります。
養育費の減額・免除は難しい
慰謝料とは異なり、夫婦間トラブルの離婚などで発生する養育費は以下の破産法第253条により非免責債権に該当するため、減額・免除ができないことになっています。
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
引用元:破産法 第253条4|e-Gov
また、破産法では養育費の他に、婚姻から発生する費用も分担して支払う義務があると定められています。そのため、夫婦間トラブルで発生した慰謝料以外の費用は、基本的に自己破産や個人再生ができません。
しかし、不適切な金額であると証明できる場合は、養育費調停によって養育費を減額することが可能です。養育費調停とは、「養育費を請求したい」または「養育費を増減額したい」ときに家庭裁判所を利用して取り決めを行う方法です。
通常、養育費の金額については、当事者間の話し合いを重視して決定されますが、詳細に決めていないことも多くあります。たとえば、支払い期限や分割方法などを取り決めていない場合は、後々トラブルに発展することがあります。このような場合に養育費調停が利用できます。ただし、減額には相応の証拠や理由などが必要ですので、気軽に利用できるものではないと認識しておきましょう。
慰謝料の交渉・裁判を弁護士に任せるメリット
慰謝料を請求されたら、まずは当事者間で話し合うことが重要です。
しかし、相手が取り合ってくれないケースも考えられます。さらには、示談ができないまま民事訴訟に発展することもあるでしょう。このような時は、交渉や裁判を弁護士に依頼することで多くのメリットを獲得できます。
依頼した時点で取り立てや督促が止まる
1つ目のメリットは、慰謝料の請求を受けてから弁護士に依頼すると、その時点で相手からの取り立ては一切なくなることです。貸金業法第21条9項によると上記の行為を禁止しています。
九 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
特に、慰謝料は個人間で発生することもありますので、法律などを理解しないまま違法な取り立てや督促を行なってくる場合があります。
しかし、弁護士に自己破産を依頼すると、相手に受任通知が送信され、電話やFAX、メールなどの連絡ができなくなります。取り立てや督促を回避することで、精神的にも余裕ができて落ち着いた状態で手続を進められますので、大きなメリットであると言えるでしょう。
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交渉がスムーズになりやすい
2つ目のメリットは、請求者との交渉がスムーズになりやすいことです。弁護士は、状況に応じて適切な慰謝料の金額を把握しており、相手方とのコミュニケーションにも慣れています。
また、法律を熟知した第三者である弁護士が介入することで、当事者間でやり取りを行うよりも説得力を増した提案が可能となります。さらに、相手方は理不尽な金額や内容を要求しにくくなります。
たとえば、当事者間でネットや口コミの情報などを頼りに話を進めていくとします。そうすると、適切な要求と応える必要のない要求の区別がつかないことがあります。
請求者が弁護士を立てていない場合は、相場通りの請求になっているかどうかは不明です。しかし、弁護士を立てることで適切な金額や内容で合意を得やすくなります。また、当事者間よりも話し合いに応じてもらいやすくなりますので、落ち着いた交渉を行うことが可能となるでしょう。
代理人として出廷できる
3つ目のメリットは、弁護士に依頼すると裁判を行うとき弁護士が代理人として出廷します。依頼された弁護士は、相手との交渉や裁判の出廷、示談書のやり取りまでをすべて代わりに行います。
民事訴訟の当日は、口頭でやり取りを行うのではなく、あらかじめ用意した書面を裁判所が受け取ることで両者の言い分を聞いたことになります。そのため、事前に証拠を集め、依頼主と書面の内容をすり合わせることが最重要となってきます。
弁護士に依頼すると、裁判までの書類の準備やを代わりに行うため、手間なく手続きを進めることができます。また、仮に期待する結果にはならなかったとしても、圧倒的に不利な結果にはなりにくいことが代理人として出廷してもらえるメリットです。
相手が弁護士を立ててきても代理人として交渉できる
4つ目のメリットは、相手が弁護士を立ててきても、弁護士を通して交渉を進められることです。弁護士が交渉を進めることで、、相手が弁護士を立ててきてもご自身がやり取りを行う必要はありません。
弁護士同士で話し合いすることで、よりスムーズに交渉が進むことができるでしょう。
反対に、こちらが弁護士を立てないまま相手が弁護士に依頼をした場合は、相手方の都合の良い内容で話がまとまってしまう可能性があります。一般の方と弁護士では知識や経験の差があり、言い分を受け入れてもらえないことが理由として挙げられます。
しかし、ご自身側も弁護士に代理を依頼すればそのようなことは起きにくくなるので、大きなメリットだと言えるでしょう。
万が一慰謝料を請求されたら正しい対処を
万が一、慰謝料を請求されたら、感情を表に出して口論などをするのではなく、できる限り冷静かつ平和な話し合いに持っていくことが重要です。そして、相手の対応によって解決方法を考えていきましょう。
相手は慰謝料を請求するほどなので、それなりの理由や怒りを持っていることが想定できます。そのため、ご自身の希望を通そうとするのではなく、お互いが納得できるラインで落ち着かせるように上手く調整しながら交渉を行うことをおすすめします。
おわりに
慰謝料は、不貞行為や交通事故などで相手を傷つけてしまった際に発生します。もし慰謝料を請求されても、すぐに借金をしてでも返そうとする必要はありません。慰謝料を請求された場合は、以下のような方法で正しい解決を試みることが重要です。
- 当事者同士で話し合う
- 減額を交渉する
- 分割払いにしてもらう
- 民事訴訟による解決
なかでも民事訴訟による解決は、相手と交渉の余地がまったくない場合にとる最終手段ですので、可能な限り相手との話し合いから進めていきましょう。
しかし、慰謝料は当事者間でやり取りをすると、ネットの情報などから適切ではない金額を請求される場合があります。そのため、弁護士に依頼して適切な解決方法を提案してもらうのが良い対処法です。